『ブリッジ・オブ・スパイ』スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演で描く冷戦中に実際に起きたスパイ事件の驚くべき舞台裏(映画レビュー)

ブリッジ・オブ・スパイ(Bridge of Spies/2015年/アメリカ/2時間22分)

(公式サイトより)
アメリカとソ連が一触即発の冷戦状態にあった1950~60年代。ジム・ドノヴァンは、保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。ソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、世界平和を左右する重大な任務を委ねられる。それは、自分が弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕らえられたアメリカ人スパイの交換を成し遂げることだった。良き夫、良き父、良き市民として平凡な人生を歩んできた男が、米ソの戦争を食い止めるために全力で不可能に立ち向かっていく!

(監督)スティーブン・スピルバーグ(キャスト)トム・ハンクス、マーク・ライランス(本作品でアカデミー助演男優賞受賞)、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ

主な見どころ

スピルバーグ作品とはいえ、2時間を超える上映時間、実話に基づく政治・スリラー(スパイ・サスペンスというよりもこちらのほうがマッチします)、スター俳優はトム・ハンクスのみと聞いただけで、パスしてしまう方もいると思いますが、考え直してみる価値は十分ありそうです。

東西冷戦で本当に起きた、知る人ぞ知る無茶苦茶な救出劇

主人公の弁護士は、所属する大手弁護士事務所に命じられるがままに誰も引き受けたがらないロシア人スパイの弁護を引き受けます。周囲から冷ややかな視線を浴びながらも、持ち前の遵法精神で弁護士としての責任を立派に果たしますが、それがきっかけで政府から新たな極秘任務を命じられることになります。

優秀な弁護士とはいえ、外交の専門家でもない民間人を敵対国家に交渉役として単身送り込むとは。。冷戦が始まって間もないころで、両陣営とも経験不足だったために相手の手の内がつかめず、こんな無茶がまかりとおったのでしょうか。この空前絶後の歴史的事件の裏側を垣間見るだけでも、この映画を見る価値は十分にあると思います。

二人のアカデミー賞俳優の名演

ニューヨークで画家を装いながらスパイ活動にいそしむロシア人スパイ。敵に拘束されても国家に対する忠誠心を忘れず、冷静さと威厳を保とうとする姿勢に、やがて弁護士は尊敬の念を抱きます。かたや、スパイの弁護という損な仕事を引き受けた弁護士。形だけの裁判を終わらせようとする周囲の思惑をよそに、遵法精神と信念を貫こうとする姿勢にロシア人スパイも敬意を抱き始めます。

この二人のじわじわくる感情変化に説得力がないと、物語の終盤に得られる感動は半減してしまうと思いますが、二人のベテラン俳優はスピルバーグ監督の期待に完全に応え重要なクライマックスシーンを観客にとって忘れがたい名場面にしています。とくにこの演技でアカデミー助演男優賞を獲得したマーク・ランスの演技は見事です。主人公の弁護士を演じるトム・ハンクスと違い出演時間は限られているのですが、抑制のきいた演技で観る人に圧倒的なインパクトを残しています。

スピルバーグ組の名人芸見本市

ちなみに、映画に出てくる全ての出来事が実際に起きたわけではないということで(詳細はぜひご自身で知らべてみてください。それも楽しみのひとつですよね)、「史実に基づくストーリーにどこまで脚色が許されるべきか」という論争が起きました。ただ、こうした論争が起きる前提として、歴史ドラマを撮影する際には徹底してリアリティを追及してきたスピルバーグに対するゆるぎない信頼と評価があることを忘れてはなりません。

ナレーションや長ゼリフ、あるいは当時のニュース映像に頼ることなく、セットのディテールと色彩にこだわった背景描写(撮影監督はヤヌス・カミンスキー)に加え、細かい生活音やノイズに気を配った音響効果とサスペンス感を加速させるドラマチックな音楽(音楽監督は病欠のジョン・ウイリアムスに代わり「ショーンシャンクの空に」や最近の007シリーズでも有名な大御所トーマス・ニューマン)を駆使して再現した時代の空気感で、ほぼ完璧に物語の舞台を再現しています。このリアリティこそが観客を物語に没入させ、人間ドラマに集中させているのでしょう。

今回の酔い加減査定

(最高酔える度+5~最低酔えない度-5)

スピルバーグの歴史作品では、シンドラーのリスト、プライベートライアンに続く名作と言ってよいでしょう。ただ、いかんせん登場人物が多すぎるので、メイン・キャラクターである弁護士とスパイの魅力的な人間関係をもう一段会掘り下げるための時間が残っていなかったのが残念な気もします。

まめ知識

スパイア・クションはほとんどありませんが、登場するスパイ技術(暗号メモの受け渡し方法など)は本物です。


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