TOEICは本当にグローバルな英語の試験なのか?(「国際ランキング」があてにならない理由)

忘れたころに発表される英語の二大試験TOEICとTOEFLの国際ランキング。国内外のマスメディアは、下から5番目前後が定位置となった日本をネタに『英語が苦手な日本人』という新鮮味に欠けるニュースを毎年のように発信しています。日本人にとってあまり良い気分がしないこのニュース、実はそれほど気にする必要はないかもしれません。
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TOEICとTOEFLの違い

いまや英語の二大試験としてすかっりお馴染みとなったTOEICとTOEFLですが、名前は似ているものの試験が始まったいきさつは大きく異なります。

TOEIC(トーイック)とはTest of English for International Communicationの略称で、英語によるコミュニケーション能力を幅広く評価する世界共通のテストです。(引用元:TOEIC

TOEFL テストは、世界で最も広く受け入れられている英語能力試験で、オーストラリアやカナダ、英国、米国を含め 130 か国 9,000 以上の大学や機関に認められています。希望する留学先がどこであれ、TOEFL がその橋渡しをします。(引用元:TOEFL

簡単に言うと、TOEFLは留学希望者向け、TOEICは、強いて言えば就職活動のための試験ということになりましょうか…。

日本人がアメリカ人に発注した”英語のものさし”

TOEFLがアメリカの大学のニーズに応じて1964年から始まったのに対し、TOEICのニーズはアメリカ国内にはありませんでした。何とそのニーズは日本にあったのです。

公式サイトでは次のように説明されています。

1970年代、円が変動相場制に移行し、日本経済が世界経済という枠に組み込まれました。それを契機に、製造業を中心として日本企業の海外進出が急速に進んでいったのです。(中略)

人と人、国と国との理解を深めていかなければ、日本は将来立ち行かなくなるという危機意識です。そのためには、もっと多くの日本人が英語によるコミュニケーション能力を磨く必要がある。そのための実効性のあるプログラムを開発しよう。そのような発想を元に日本人の手によってTOEIC L&Rの開発プロジェクトが動き出したのです。(中略)

実際のコミュニケーションに必要な能力を客観的に評価し、併せてその評価を目標設定にできる世界共通のモノサシをオリジナルで開発すること。それがTOEIC L&R開発の命題でした。(引用元:TOEIC

とても立派でもっともらしい理念ですが、今一つピンと来ません。当時の日本では英語検定試験、いわゆる『英検』が既に行われていて、日本政府も新たな英語試験を必要としていませんでした。

実際、ニーズはあまり無かったようです。1979年に行われたTOEICの第一回試験では受験者が集まらず、松下電器や富士通といった大手企業のテコ入れで、2年後の1981年にようやく第二回目の試験にこぎつけています。

なぜそこまで苦労して、日本発の英語試験を導入したのでしょうか?その理由が大いに気になるところですが、謎解きはまた別の機会にいたしましょう。

世界150か国にまたがる受験者は年間700万人

こうしてかなり強引に始まったTOEICですが、グローバル化への対応を迫られた企業の社内教育や福利厚生に組み込まれただけでなく一部の企業では昇格基準に採用されるなど、日本の企業社会にしっかり定着し、年間の受験者数も240万人に達しました。

公式サイトによると、TOEICは世界150か国で実施されており、年間700万人を超える人々が受験しているそうですが、第一回テストから38年が経とうとする現在、果たして本当に『世界共通のものさし』になったのか、確認する必要がありそうです。

そのために、まず冒頭で触れたTOEICの世界ランキングを含むTOEIC公式サイトの資料を検証してみたいと思います。
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世界的英語試験TOEICの真実

世界的規模で実施されるようになったTOEICですが、日本はTOEICの生みの親であるにもかかわらず、受験する国々の世界ランキングでは常に下位に甘んじているようです。(参照:The Wall Street Journal

TOEIC公式サイトの資料(2015年度版)を確認したところ、国別のTOEIC平均点に基づく世界ランキングで、平均点513点の日本は46か国中40位と屈辱的な位置にランクされていました。ただこの世界ランキング、どうも色々とおかしな点が多いのです。

TOEIC公式サイトの資料には、但し書きとして「最低500人以上の年間受験者数がいない国は、ランキングに掲載されない」とあります。すなわち、TOEICを受験しているとされる150か国からリストにある46か国を除いた104か国(全体の7割相当)については、年間受験者数が500名にも満たないことになります。『世界150か国に広がる世界的な英語テスト』というキャッチ・コピーにどこか虚しさを感じ始めたのは私だけでしょうか?

ちなみに日本の次に多くの受験者数を誇っているのが韓国です。2013年度の実績では、年間200万人(参照:Korea Times)が受験しているそうです。日本の240万人と合わせると440万人、つまりTOEIC全受験者数の実に65%をこの2か国で占めることになります。

先ほどご紹介したTOEIC公式サイトの資料には「アジア地域における受験者割合が高いこと」について留意するようにとありますが、「日本と韓国における」とすべきでしょう。『世界150か国に広がる世界的な英語テスト』にいよいよ疑問符が付き始めました。
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上位ランク国の「不可解な」顔ぶれ

気を取り直して、日本より上位にランクされた国々を見てみましょう。日本のグローバル化を推進するためにお手本とすべき国々が並んでいるに違いないと思いきや、どうやら実態は違うようです。

TOEICとは英語を母国語としない人々を対象としたテストのはずですが、ランキングにはカナダ(1位)、インド(6位)、フィリピン(13位)、カメルーン(31位)などの英語を公用語としている国々が含まれています

こうした国々では、大学など高等教育機関の授業を英語で行うことが一般的です。TOEIC受験者の55%が大学の修士課程履修者、もしくは修了者ということも考慮すると、これらの国々のランクが高いのは当然だと思います。

さらに、平均スコア721点で8位にランクされているフランスですが、グランゼコールといわれる最高レベルの高等教育機関が、受験資格としてTOEICスコアを設定しています。フランスのエリート・コースに進む人しかTOEICを受験しないのであれば、ハイスコアなのはあたりまえです。

教育環境の充実度とランキングの関係

これまでに確認した事実だけでも、TOEIC世界ランキングが怪しいしろものだということをお分かりいただけたと思います。

さらにとどめを刺すような事実を指摘したいと思います。これはTOEFLの世界ランキングに関する指摘ですが、TOEICにも同じ理屈があてはまるはずです。

TOEIC世界ランキングに平均スコア632点・27位にランクされた中国の新聞には、日本のTOEFLランキングが低いことについて次のような趣旨の記事が掲載されたそうです。

日本の平均スコアは教育予算が決して十分とは言えないカンボジアやラオスなどとほぼ同じ水準にとどまっている。日本人は義務教育でも英語を学んでいるというのに、なぜ英語がこれほどできないのだろうか?(引用:サーチナ

余計なお世話という気もしますが、ここで指摘されている疑問点もこのランキングの性格を考えれば何ら不思議はありません。

日本ほど教育環境が整っていないはずの国々の例としてあげられているカンボジアやラオスといった国々は、TOEICランキングで言えばエルサルバドルやセネガルといった国々に相当すると思います。そうした決して豊かとはいえない国々で、受験料を負担し(もしくは国や公共機関が受験料を負担して)TOEICを受験できるのは、学業成績優秀な選ばれしエリートである可能性が高くなるでしょう。

フランスの場合もそうですが、エリートが選抜されたこれらの国々の受験結果を幅広い英語力を持った学生や社会人が数百万人単位で受験する日本と、単純に比較できるでしょうか?
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進む韓国の『脱TOEIC化』

同じ理屈は韓国のランキング変動にも見て取れます。2013年度のランキングでは、日本40位、韓国30位(48か国中)でしたが、2015年度のランキングでは状況が大きく変化します。

日本は2013年と同じ40位だったのに、韓国は18位(46か国中)となり日本を一気に引き離しています。この差は誤差の範囲を大きく超えています。2年間のうちにいったい韓国に何が起こったのでしょうか?

韓国の英語レベルが飛躍的に向上した可能性も否定できませんが、実は韓国国内でTOEICを取り巻く環境が大きく変化していたのです。

それはTOEICの受験料値上げと、英語力の評価基準としてのTOEICそのものに対する企業や学校からの評価が低下したことで生じた変化でした。そうした韓国社会の「脱TOEIC化」により(参照:The Korea Times)受験者が激減、誰でも受けていた時代と比較し受験者のエリート化が進行したことがランキング・アップにつながったと考えられます。

英語は道具。必要になったら勉強すれば良いのです。

今や日本の企業社会にどっしりと根を下ろしたかに見えていた『TOEICとその周辺産業』ですが、TOEICの運営団体は世界二大カスタマーのひとつである韓国を失いつつあることに相当危機感を覚えているようです。会話能力が測定可能となる試験方法の導入に踏み切った理由もそこにあるのでしょう。

日本のTOEICとその周辺産業が消滅することはなかなか想像できませんが、2014年にイギリスで発生した不正受験事件でTOEICの国際的な信頼性が大きく失墜したことも含め(参照:Independent 試験の運営管理がお粗末だったのは果たしてイギリスだけだったのでしょうか?)、TOEICのガラパゴス化(または英検化)が進行することが懸念されます。

いずれにしても、TOEICの日本市場に対する刺激策と疑われても仕方のない空虚かつマンネリ気味の「日本人の英語下手くそ神話」に踊らされるのは、もうそろそろ止めにしても良いころかと思います。日本人だって英語が必要な職場で働いている人は、昔からちゃんとがんばっているのです。

加えて、外国人観光客が増えてきたことで英語を勉強し始める中高年も増えています。そもそも英語が生活に必要な人が英語を勉強するのです。英語が必要でない人にもお金をかけて試験を受けさせるような国は、日本と韓国ぐらいなのです!

Cheer

みなさん、もっと自信を持ちましょう!

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