第89回アカデミー賞ノミーネーションに対する海外の反応

第89回アカデミー賞各賞のノミネーションが発表されました。現地の映画ファンの反応を『New York Times』と『Wall street journal』のオンライン版コメント欄でチェックしてみました。

『ラ・ラ・ランド』が14部門で史上最多ノミネート

2016年度のアカデミー賞ノミネーションが発表されました。ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』が作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞など14のカテゴリーでノミネートされました。これは1950年度の『イヴの総て』、1997年度の『タイタニック』に並ぶ史上最多のノミネーションとなります。


また、黒人俳優のノミネートが無かったことからボイコット騒ぎが起きた2015年度のノミネーションから一転し、菊池凛子が『バベル』で助演女優賞にノミネートされた2007年度に並ぶ『人種的多様性のある』ノミネートになったようです。

海外映画ファンの反応

さて、このノミネーションを海外の映画ファンはどのように受け止めたのでしょうか?『New York Times』と『Wall street journal』のコメント欄から抜粋してみます。

なお、2つの新聞とも『ラ・ラ・ランド』に対する辛辣なコメントばかりなので、私同様、この映画を楽しみにしている皆さんは気分を悪くするかもしれません。(ネタバレの心配はありません。)

まあ、映画に満足した皆さんはこういう記事にコメントしないと思うので話半分で読み飛ばしていただくか、このまま「まとめ」にお進みください。

Oscars

■私の考えでは『ムーン・ライト』と『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が2016年度のベスト・ピクチャーだと思います。ハッピーな映画ではありませんが、良く出来た考えさせられる映画でした。『ラ・ラ・ランド』は良く出来たエンターテイメント作品だとは思いますが、まあ、ハリウッドは身内の話が好きだから、それで14ものノミネーションを獲得できたのだと思います。

付け加えるとすれば、このハリウッドの自分大好き傾向は、東海岸で病的なナルシズムが勢いづいている時ほど強まる傾向があると思います。(51人が支持)

■結局のところ、黒人俳優がノミネーションを獲得できるのは黒人しか演じられない役を演じた時に限られるのでは。ウィル・スミスの『幸せのちから』、ジェイミー・フォックスの『コラテラル・ダメージ』、そしてデンゼル・ワシントンの『トレーニング・デイ』のような例外はあるけど。

(6人の黒人がノミネートされた)今回の結果が何を意味するのかよく分からないね。ハリウッドの人種差別主義者的なエリートが気に入るのは、人種差別的なストーリーの映画に出演した黒人だけなんだよ。(31人が支持)

■とっさに思ったのは、『ラ・ラ・ランド』に対する支持が拡大してるのは、ハリウッドの自分大好き傾向(いっそのことハッシュタグを付けたほうがいいかも)の一例ではないかといことです。この映画とその結末について深読みすると、金にまみれたハリウッドで映画批評が崩壊しつつあることに警鐘を鳴らしているのかなと思ったりもするのですが、みんなはそうは思ってないみたいですし。(アンチの人には)申し訳ないけど『ラ・ラ・ランド』はクオリティーの高い映画だし、確かに今シーズンのベストではないでしょうか。

もしかしたら、2003年の受賞レースで『シカゴ』が最優秀作品賞を獲得した時みたいなことになるかも、という気もします。(13人が支持)

Jennifer Lawrence at the 83rd Academy Awards Red Carpet IMG_1081

■『オスカーはすっかりハリウッド』というハッシュタグでも始めたほうが良いですね。過去5年について言えば、『アーティスト』、『アルゴ』、そして『バードマン』と、身内ネタの作品が3度も受賞しているし、それに毎年のように前年度受賞作よりも特徴が無くなっている気もします。というわけで、『ラ・ラ・ランド』が5年で4度目のハリウッド物の受賞ということになるでしょう。

昔は冗談でスティーブン・キングは(自分と同じ)小説家以外の職業じゃ書けないんじゃないの、なんて言ってたけど、ハリウッドもまったく同じようなことになってますね。(25人が支持)

(以上、翻訳引用元:New York Times)
Russell Crowe, Hugh Jackman

■これがハリウッドだよ。自分たちのことを映画にして、そいつに賞を全部あげちゃうわけ。『メッセージ』とか『Hidden Figures』のような知的な要素を持った作品には関心なし。茶番だね。

■『ラ・ラ・ランド』はこの国全体が薬物中毒になってしまったことを証明してくれた。この映画は今まで見た最悪の3本に入る。私と妻は思わず顔を見合わせて笑ってしまったよ。長いし、退屈だし、映画「スター」とやらによるダンスも踊りも最悪だった。

こんな作品ばかりにノミネートが集中したなんて信じられない。批評家や推薦人はラ・ラ・ランドにでも住んでるんじゃないか。もし偉大な作品が見たいなら『Hidden Figures』を見るべきだ。

私の2016年のお気に入りは『シング』(豚の家族は最高だった)『ヘイル・シーザー』(コーエン兄弟作品)。『ラ・ラ・ランド』はフレッド・ステアやジンジャー・ロジャースとは比べ物にならない。そうだよ!『ラ・ラ・ランド』を見た後に、頼むからフレッド・アステアやジンジャー・ロジャースで本物を見てくれ。そうだ!映画製作者もそこから学んでほしい。

私たちには『Hidden Figures』のようなもっと知的で科学的な作品が必要なんだよ。楽しめて、美しくて、政治的な欺瞞や不誠実さ、ヒラリー・クリントンのようなだましも無いんだよ。私の一票は『Hidden Figures』と偉大な指導者トランプに入れるよ。

(以上、翻訳引用元:Wall Street journal
Academy Awards 2016

まとめ

ご覧のように『ラ・ラ・ランド』が集中攻撃されています。ある程度ランダムに抜粋したうえで傾向別に分類するつもりだったのですが、リベラルな「New York Times」もコンサバティブな「Wall street journal」も、ネガティブなコメントばかりだったので断念しました。投稿している人全てが『ラ・ラ・ランド』を見ているわけではないと思うので、話半分に聞き流していただくのがよろしいかと思います。

とは言え、ハリウッドが身内の楽屋話作品を選んでいるという指摘は一理あるのかなと思いました。単なる偶然かもしれませんが、これだけ指摘が多いと来年のノミネートに影響するかもしれませんね。黒人俳優の件もありましたし…。

それにしても、NASAの宇宙開発を支えた三人の黒人女性科学者の活躍を描いた『Hidden Figures』の人気が高いのには驚きました。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』からボックス・オィス首位の座を奪った話題作ですが、なかなか面白そうな映画ですね。


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