『砂上の法廷』キアヌ・リーブス主演の法廷サスペンス・ドラマ「タブーに挑戦した成果は?」(映画レビュー)

キアヌ・リーブス主演の『砂上の法廷』は、おそらく構想段階で数多くの映画関係者に試されてはボツになってきたであろう「法廷サスペンスドラマのタブー」にチャレンジした実験的な映画です。

2016年アメリカ(上映時間)94分(原題)THE WHOLE TRUTH(監督)コートニー・ハント(脚本)ニコラス・カザン(主演)キアヌ・リーヴス、レネー・ゼルウィガー、ググ・バサ=ロー、ガブリエル・バッソ、ジム・ベルーシ

あらすじ

巨額の資産を持つ大物弁護士が自宅で殺害される事件が発生。容疑者として逮捕されたのは、被害者の17歳の息子だった。拘留後、完全黙秘を続ける少年の弁護を引き受けたのは、敏腕弁護士ラムゼイ(キアヌ・リーヴス)。

何も語ろうとしない被告人をよそに、開廷された裁判では多くの証人から少年の有罪を裏付ける証言が飛び出す。だが、その証言のわずかな綻びから、ラムゼイは証人たちの嘘を見破る。

有罪確定に見えた裁判の流れが変わり始めた矢先、沈黙を破って衝撃の告白を始める被告の少年。彼の言葉は果たして真実なのか?そして、真犯人は別に存在するのか……?  (引用:公式サイト

見どころ

この映画の魅力は、キアヌ・リーブスにつきると言って良いと思います。初の弁護士役ということでファンの期待は高まったと思いますが、それに応える堅実な演技を披露しています。

法廷サスペンス?

法廷サスペンスのスタイルを取っていますが、物語を前に進めるのは法廷で明かされる真実ではなく、登場人物が過去を回想するシーン、いわゆるフラッシュ・バックです。

しかも、誰が本当のことを言っているのか明確に分らない『羅生門スタイル』で物語が進行するため(このようにしておかないと物語を結末に持ち込めません)、観客は犯人の糸口をつかめないまま、宣伝コピーにある通り『94分間だまされ続けます。』

悪い冗談はさておき(?)この映画に登場する法廷は、モーテルの一室、プライベート・ジェットの機内、豪邸のベッドルーム、そして警察の取り調べ室といったこの映画に登場する他のシーンと機能的には何ら変わりません。

したがって、証人尋問の緊張感の中で真実が少しづつ明らかになる『評決』や『フュー・グッド・メン』のような名作法廷サスペンスドラマを期待すると失望するかもしれません。

貧乏くじを引いたキアヌ・リーブス、責任は果たす

この弁護士役は、キアヌ・リーブスにとって、と言うより、おそらくどの俳優にとっても非常に難しい役だったと思います。その原因は、脚本の完成度があまりにも低いからです。

Keanu Reeves, John Wick Red Carpet, Fantastic Fest 2014 Austin, Texas 2014-19.jpg

あくまでも想像ですが、キアヌ・リーブスが引き受ける前に、この役をオファーされて断った俳優もいたのではないでしょうか。もしそうだとしたら、彼らは正しい判断をしたと思います。このところアクション映画に偏りがちだったキアヌ・リーブスが、捨て身の覚悟で引き受けたのではないか?と思わず疑ってしまいました。

さりとて、そこはキアヌ・リーブス。やれるだけのことはやって責任を立派に果たしています。明かりのないトンネルの中で輝き続けたLED電灯のように、観客に信頼と希望を与えてくれました。

今回の酔い加減査定

最高酔える度5~最低酔えない度1

監督と脚本を手掛けた2008年の『フローズン・リバー』がアカデミー・オリジナル脚本賞候補になったコートニー・ハントの監督2作目です。あらゆる意味で実験的なこの映画の最大の特徴は、チャレンジングな脚本だと思います。

ネタバレになってしまうので詳細には触れませんが、恐らく過去に何度も提案されたものの日の目を見なかったアイデアの映画化を試みたのでしょう。

多くの観客はキアヌ・リーブスが演じた弁護士を主人公とみなし、彼に感情移入しようと試みるはずです。ただ、親子2名と弁護士とその助手という計4名の主要キャラクターの間で、主観(観客が物語の筋を追う時に採用するキャラクター、通常は主人公の視点。)が頻繁に移動することになるので、キアヌ・リーブスが演じた弁護士を含めキャラクターを掘り下げることができないまま終盤を迎えます。

種をまいたものの刈り取られなかったサイド・ストーリーが多かったのも、何とか脚本を機能させようとストーリーをこねくり回し過ぎた結果だと思います。

コートニー・ハントは元弁護士なので、このやっかいな脚本を何とか出来ると思い引き受けたのかもしれませんが、結果的には彼女も貧乏くじを引いてしまったと思います。

PREMIERE BRIDGET JONES BABY -MADRID- (Por @NataliaRfoto)

まとめ

映画の脚本の場合、どんなに良いアイデアでもストーリーが機能しなければ商品化できない、あるいは商品化すべきでないという典型例だと思います。ハリウッドのメジャー映画会社が手を引いたのも、それが理由ではないでしょうか。

最後に、レネー・ゼルウィガーですが、美容整形のせいですっかり別人になってしまいました。上の画像のような昔の柔和な雰囲気の御顔でこの役を演じていたら、もっとフィットしていたと思います。


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