『留学しやすい大学』は本当にあるのか?

留学という人生の一大イベントの価値を最大化するためには、どんなことに注意すればいいのでしょうか?元大学職員・留学コーディネーターとしての経験を踏まえ、留学をお考えの学生の皆さん、あるいは保護者の皆さんが参考にしていただけるような情報をお伝えしたいと思います。今回のテーマは『留学しやすい大学』です。

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留学のチャンスを広げる『4つの制度』とは?

1年以上前のことになりますが雑誌『AERA』2015年11月9日号に『一歩先行く「留学しやすい大学」はどこだ?学校によってこんなにも違う』という記事が掲載されていました。ご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、最初にこの記事の内容について触れてみたいと思います。(引用元:dot.記事

記事では「留学しやすい大学かどうか」を見極めるための指標として、『4学期制』、『秋入学』、『交換留学協定校』、そして『ダブル・ディグリー』という4つの制度が取り上げられていました。

まず、『4学期制』と『秋入学は』についてですが、いわゆる「アカデミック・カレンダー」を海外の大学と合わせることで、海外からの留学生や帰国学生が入学しやすい、あるいは在校生が海外の大学に留学しやすい環境を整えることで、学内環境をよりグローバル化しようという試みです。

また、『交換留学協定校(制度)』とは、成績が優秀な学生に留学機会を与えるために、海外の大学、あるいは国際連盟と協定を結び、お互いが相手の学生に対して学費免除、単位認定などの便宜を図った上で、その学生を一定期間(たいていは1年間)交換する制度を指します。

さらに『ダブル・ディグリー』については、海外の大学と協定を結び、自校の学生に、相手先の大学で履修した単位を学位取得に必要な単位として申請することを認めることで、自校と海外の大学から合計2つの学位を取得することを可能にした留学プログラムを指します。(なお、記事では卒業に必要な年数を「原則4年」としていますが、5年以上が必要とされる大学も珍しくありません。)

メリットは限定的

さて、これら4つの制度が有る大学を『留学をしやすい大学』と呼べるのでしょうか?

確かに、これらの制度は留学を志す学生にとって魅力的ですし、留学の可能性を広げる制度だと思います。ただ、一方で、4つの制度のいずれもが「限られた学生」を対象にした制度であることを知っておく必要があると思います。

例えば『4学期制』と『秋入学は』は、主に海外からの留学生や帰国学生をターゲットにしたものですし、『交換留学制度』や『ダブル・ディグリー』は、学業成績や語学力に関する応募資格をクリアした学生に対してのみ参加資格が与えられるものです。(しかも、実際に交換留学に参加するためには、学内選抜、受入れ校の審査を通過する必要があります。)

したがって、これらの制度の有無や、協定校数の多い少ないだけを基準に、「留学がしやすい大学」を判断することはできないと思います。

留学=グローバル化という発想の限界

まず、ひとくちに留学と言っても目的に応じて様々な形態があります。例えば、専門的な知識を得るのであれば、大学院に留学するのがベストですし、語学を学ぶのであれば、夏休みや春休みを利用して参加できる短期の語学留学でも、きっかけを掴むには十分です。(もちろん、留学期間の長さに関係なく、語学留学に参加しただけで語学をマスターできるという保証はどこにもありません。)

『世は「グローバル」ばやりで留学がもてはやされているが日本の制度は決して、留学しやすくはできていないのだ』

同記事では、日本の大学の入学時期、あるいは就職活動の制約のために、留学に制限が加わることを指して、このようにコメントしています。

「グローバル化」と「留学振興」を単純に結び付ける傾向は、文部科学省にも見られますが、本質的な議論を伴わない「制度のお手玉遊び」を続ける限り、日本の教育制度はこれからも迷走を続けるでしょう。(そもそも『留学がもてはやされている』のか、私にはピンときません。)

『留学しやすい大学』はどこにも無いのか?

ちょっと本題からそれてしまいましたが、そもそも『留学しやすい大学』などというものは存在するのでしょうか?

私が考える『留学しやすい大学』とは、留学に対する支援体制が整ってる大学です。具体的には、留学専門の職員が常勤する留学窓口が設けられている大学、奨学金制度が種類と対象の両面で充実している大学、留学プログラムの中身について選任の教員がコミットしている大学がそれにあたると思います。

留学専門の職員が常勤しているか?

大学職員の勤務体系ですが、定期的に担当部署の異動が行われる大学も少なくありません。例えば、ついこないだまで施設設備を担当していた職員が留学を担当しているというようなこともあり得ます。これでは、現地の安全対策も含め、経験値がなかなか蓄積されませんし、協定校との関係構築もままなりません。

奨学金制度が充実しているか?

奨学金制度については、留学プログラムによって支給対象や金額が異なってきます。なかには、あまりにも支給金額が少ないケースもあります。奨学金支給が留学の前提条件ということであれば、入学前に支給対象や金額について詳細を確認すべきだと思います。

留学プログラの内容について、専任の教員がコミットしているか?

交換留学やダブル・ディグリーといった留学プログラムを開設し、それらを維持していくためには、アカデミックな面での品質管理が不可欠です。協定校同士が、お互いのカリキュラムの単位を認定し合うためには、授業内容について定期的に確認し合う必要があり、そのためには常任の担当教員(プログラム・デイレクター的な責任と権限を有する教員)が配置されている必要があります。

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交換留学協定校の実態に注意

冒頭ご紹介した記事にあったように、交換留学協定校の数で留学に対する各大学の取り組みを評価することは難しいと思います。交換留学協定校の数を増やすことができれば、より多くの学生に留学のチャンスを与えることにつながりますが、実際はそれほど容易なことではありません。

『交換留学』の名前の通り、日本から学生を送るためには、同数程度の学生を海外の協定校から受け入れる必要がありますが、それができないと、お互いに学費を免除し合うという交換留学のメリットが維持できなくなり、協定そのものの維持が困難になるからです。

大学によっては、パンフレットやインターネット・サイトに記載された交換留学協定校の大学名や数が、実態を反映していない場合があるので注意が必要です。協定は結んだものの、入学基準を満たす学生が現れず派遣実績はゼロのままで放置されているケースもあります。

このような理由から、交換留学の協定校の中に留学を希望する大学が含まれているからといって、安易に進学する大学を選ぶのはリスクが高いと思います。そうした場合は、交換留学の派遣実績があるのか、相手先の大学からの受け入れ実績があるのか、問い合わせてみることをお勧めします。

まとめ

いかがでしたか? 少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。

一番重要なことは、留学は手段にすぎないということです。就職についても、企業は留学した事実を評価するのではなく、留学を通して何を実現したかを評価します。企業が求めるグローバルな人材とは、グローバルな環境で勉強した人材ではなく、グローバルな環境で何かを成し遂げた人材なのです。

目標をもって留学し、その目標をきちんと達成すれば、たとえ新卒のステイタスを失ったとしても、採用したいと思う企業はいくらでも現れるはずです。

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