ホープ・ヒックス 前ホワイトハウス広報部長の経歴と辞任に至る経緯

ホワイトハウス広報部長のホープ・ヒックスが2月28日水曜日(米国現地時間)に辞任を表明しました。日本では若さと美貌ばかりが注目されましたが、アメリカではトランプ大統領が家族以外で最も信頼を寄せていたともいわれる彼女の辞任が、今後の政権運営にどのような影響を与えるかについても注目が集まっています。

今回は彼女のこれまでの経歴と、大統領選挙期間中やトランプ政権下で果たしてきた役割、そして辞任に至る経緯をまとめてみたいと思います。

 ティーンモデルからアメリカ大統領の最古参の側近に

筋金入りのお嬢様

ホープ・ヒックスは1988年10月21日生まれで(2018年現在29歳)、ニューヨーク・マンハッタンから通勤圏内にあり、CNNマネーが実施する「全米最も住みたい町ランキング」でナンバー1に選ばれたこともあるコネチカット州グリニッジ出身です。

父親はアメリカンフットボールのプロリーグNFLの元広報担当副社長、現在は外資系広告会社のアメリカ支社長を務める人物で、広報畑を歩むことになるホープ・ヒックスのキャリアに大きな影響を及ぼしたと言われています。

モデルとしてのキャリア

日本のマスコミには何かと注目されるホープ・ヒックスのモデルとしてのキャリアですが、本格的なモデル業には程遠く、10代の一時期にチャレンジしてみた程度と言えます。

14歳の時に富裕層向け雑誌Greenwichに登場した後、姉と一緒にラルフローレンのキャンペーン広告モデルに採用されたほか、17歳の時にはヤングアダルト向け小説The It Girl(初版)のカバーモデルに選ばれたこともあります。

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ホープ・ヒックスの「元モデル」としての経歴はここまでです。なお、高校時代はラクロス部の副部長だったそうです。

大学は富裕層出身者が多い私立名門校

地元の公立高校を卒業したホープ・ヒックスは、テキサス州ダラスにあるサザンメソジスト大学に入学します。

この大学は白人の裕福層出身者が多い私立の中規模名門校で、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のローラ夫人も卒業生です。ビジネススクールは全米の大学ランキングでも常に上位にランクされているほか、広告学にも定評があります。

ホープ・ヒックスは、英文学を専攻するかたわら、高校時代から始めたラクロスも続け、2010年に卒業しています。

広報のプロとして勝ち取ったイヴァンカの信頼

大学卒業後、ニューヨークのPR会社ゼノグループで広報担当者としてのキャリアをスタートさせたホープ・ヒックスは、24歳の時に父親が副社長を務めていたNFLのスーパーボウル関連イベントで知り合ったPR会社ヒルジック・ストラテジーズの創業者マシュー・ヒルジックの誘いで同社に転職します。

入社後は、不動産業界の大物ドナルド・トランプが経営する企業グループ、トランプ・オーガナイゼーションの関連会社で娘のイヴァンカ・トランプが経営するアパレルブランド「イヴァンカ・トランプ・コレクションズ」を担当。その仕事ぶりで、イヴァンカの信頼を勝ち取ったと言われています。

ちなみにマシュー・ヒルジックの他の顧客には、民主党の大物チャック・シューマー現上院院内総務やハリウッド・セクハラス・キャンダルで悪名を馳せたプロデューザーのハーヴェイ・ワインシュタイン、そしてヒラリー・クリントンがいます。イヴァンカ・トランプに疑いの眼差しを向ける共和党支持者がいるのは、彼女のこうしたニューヨーク人脈が影響しています。

スピード出世の果てに示された政治の道への戸惑い

ホープ・ヒックスをとことんまで信頼したイヴァンカ・トランプは、2014年8月に彼女をトランプオーガナイゼーションに引き抜き、「イヴァンカ・トランプ・コレクションズ」の広報担当に任命します。(ちなみにホープ・ヒックスは、オンラインストアのモデル役を務めたこともあります。)

そしてそのわずか2か月後、2014年10月から、ホープ・ヒックスはイヴァンカ・トランプの父ドナルド・トランプ直属の広報担当者となり、トランプ・オーガナイゼーション全体の広報を任されるようになったのです。

こうしたスピード出世の背景には、広報担当者としてのホープ・ヒックスの能力の高さとイヴァンカの彼女に対する絶大な信頼に加え、ドナルド・トランプが娘イヴァンカの人物評価に高い信頼を寄せていることがあると言えるでしょう。

そして、そらにその3か月後の2015年1月、大統領選挙出馬を見据えたトランプは、ホープ・ヒックスを報道官に任命します。当時26歳だった彼女は、政治に携わった経験が無いことを理由に、一旦はその依頼を辞退しますが、トランプ家の熱心な説得で最終的にそれを引き受けることにしたと伝えられています。

トランプタワーからホワイトハウスへ

大統領選のキャンペーン期間中、報道機関の窓口として活動したホープ・ヒックスが、カメラの前で報道陣の取材に応えることはほぼ皆無でした。

アメリカの主流派報道機関が反トランプ的な報道姿勢を続けるなか、彼女は1日約250件もの取材依頼に目を通して取材許可の判断を下したほか、トランプからツイッターの文字起こしを任せられていたと言われています。(トランプタワーのオフィスで激務をこなすなか、6年間交際していたボーイフレンドとも破局したとのうわさも流れました。)

その後、トランプが下馬評を大きく覆し第45代アメリカ大統領に就任し、ホープ・ヒックスは彼女のために新しく用意された戦略的コミニュケーションディレクターに任命されます。

しかしその後、政権発足当時からホワイトハウス広報部長だったショーン・スパイサーが辞任し、さらにその後任のアンソニー・スカラムーチが正式就任前に更迭されたことを受け、2017年8月16日に正式に広報部長に就任したのです。

辞任に至る経緯

「Me Too ムーブメント」に関連付けられたスキャンダル

派手な容姿とは対照的に裏方に徹していたホープ・ヒックスは、否が応にもマスメディアから注目を集めることとなり、その結果2つのスキャンダルが明るみになりました。

大統領選挙でキャンペーン・マネージャーだったコーリー・レワンドスキーとの不倫疑惑が報じられたほか、ケリー首席大統領補佐官の部下で、2018年2月に辞任したホワイトハウスス秘書官のロブ・ポーターとの交際が表ざたになりました。

ホープ・ヒックスはとりわけロブ・ポーターとの交際について、マスコミから叩かれることになりました。彼には2回の離婚歴があるのですが、元妻の両名から家庭内暴力の被害を受けたとの告発がなされたのです。

この一件は、女性が沈黙を破り過去の性的虐待や暴行について告発する「Me Too ムーブメント」と関連付けられて、アメリカのニュースメディアでも大きく取り上げられました。

その際、ケリー首席補佐官がポーターをかばっていたのではという批判がなされたのですが、ポーターの交際相手だったホープ・ヒックスにも批判の矛先が向けられたのです。

結果的に、広報部長である彼女自ら反トランプメディアのアジェンダ通りのネタを提供することとなり、トランプ政権に痛手を負わせたことは、広報のプロとして忸怩たる思いだったに違いありません。

米下院情報委員会での証言と辞任表明

2016年の大統領選挙中に、ロシアが選挙結果を自分達に有利になるように操作しようとして干渉したという疑惑(日本のマスコミが「ロシア疑惑」と呼んでいる事案)に関連し、米下院情報委員会に出席したホープ・ヒックスは、2017年2月27日に9時間の非公開証言を行いました。

彼女は、キャンペーン期間中の自分の仕事について「時として”白い嘘”を伝えなければならないことがあった」と話していたことが伝えられていますが、ホワイトハウスでの在職期間に関する質問には応じなかったと報道されています。

委員会証言を終えた翌日、ホワイトハウスはホープ・ヒックスの広報部長辞任を発表。数週間後にはホワイトハウスを去る予定と伝えられています。

ロシア疑惑への関与はあったのか?

今回のホープ・ヒックスの広報部長辞任と米下院情報委員会での証言の関連を疑う報道もすでに始まっています。

トランプ政権のスタッフの中では最も長い3年間に渡りトランプ家に最も近い立場で働いてきたホープを「トランプの息子ドナルド・トランプ・ジュニアとロシア側のつながりについて鍵となる事実を握っている人物」と見なす向きもあるようです。

米下院情報委員会の証言内容が非公開となっていることもあり、現時点では真相は不明ですが、ホワイトハウスは今回のホープ・ヒックスの辞任と委員会での証言には関係ないと正式にコメントしており、また同委員会に出席した複数の議員からも「有益な情報提供は無かった」とのコメントも出ているようです。

近親者排除によるトランプ大統領孤立化?

またこのほどイヴァンカの夫でありホワイトハウスの秘書官でもあるジャレッド・クシュナーに対して、最高機密情報へのアクセスが制限されたことを取り上げ、以前から囁かれていたトランプ大統領の近親者をホワイトハウスから締め出そうとする動き、あるいは機密情報リークの防止策と関連付ける報道もあります。

ケリー首席補佐官や国家安全保障問題担当のマクマスター大統領補佐官が主導しているとの見方もあるこうした情報統制の動きを評価する声が聞かれる一方、少数ながらトランプ大統領をコントロールしようとする企てではないかという一部保守層からの懸念の声も聞かれています。

(ソース:https://en.wikipedia.org/wiki/Hope_Hicks#cite_note-autogenerated9-22、https://www.townandcountrymag.com/society/politics/news/a9056/hope-hicks-facts/)

まとめ

広報のプロとしてホープ・ヒックスが築いてきたキャリア、大統領選キャンペーン入りを固辞した過去、ボロボロになってしまった私生活、そして何よりもあのエキセントリックで口を慎むつもりがさらさらないトランプの下でツイッターの文字起こしや敵対的なマスコミの対応を3年間もこなしてきたことなどを考えると、彼女がこのタイミングで辞任したのも理解できる気がします。

なお、今後の彼女のキャリアですが、若さもさることながら、広報のプロとして経験と実績から見通しは極めて明るいのではないでしょうか。

ハーバード大学が調査したところ、政権発足から100日目までにアメリカの主要なニュースメディアが報じたトランプ政権に関するニュースのうち、実に90%近くがネガティブな内容だったとされています。

(ソース:http://www.chicagotribune.com/news/columnists/kass/ct-trump-media-coverage-harvard-kass-0521-20170519-column.html

そうした逆境の中で政権発足後から1年が過ぎ、最近の一部世論調査ではトランプ政権の支持率が50%に近づいてきたとされているわけですから、ホープ・ヒックスの広報担当者としての手腕は決して侮れないのではないでしょうか?

(ソース:http://www.newsweek.com/donald-trump-approval-rating-higher-823037

日本のマスコミは、ホープ・ヒックスの容姿や次々とスタッフが入れ替わるトランプ政権の危うさ、そしてアメリカのメインストリームメディアの受け売りと言える、いわゆるロシア疑惑と結び付けようという意図で報道するのかもしれません。

ただ、最近のアメリカの各種世論調査結果を見ても、アメリカ国民のトランプ政権に対する見方は変化する兆候があります。最新の世論動向も含め、多少なりとも独自取材を織り交ぜた公平で偏見のない報道をしていただくことを願って止みません。

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