日本でも次第に注目度が高まっているセント・パトリックス・デー。バレンタイン・デーやハロウィンとはどんなところが違うのでしょうか?セント・パトリックス・デーは日本に定着するのでしょうか?
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セント・パトリックス・デーの由来
セント・パトリックス・デーは、アイルランドにキリスト教を布教した聖パトリックの命日にあたる3月17日で、アイルランドでは祝日になっています。
西暦390年頃16歳でイングランドから拉致された少年時代の聖パトリックは、アイルランドで奴隷(羊飼い)として6年間暮らしました。その間にキリスト教(カソリック)に改宗しアイルランドを脱出、故郷イングランドに帰還します。その後、「神の声」を聴いた聖パトリックはキリスト教使節団の一員としてとして再びアイルランドを訪れ、その地にキリスト教を広めたのです。
セント・パトリックス・デーにまつわる伝説の真実
聖パトリックにまつわる伝説に『聖パトリックがアイルランドからヘビを追い払った』というものがあります。実際にアイルランドにはヘビが生息していないのですが、その理由は、周りを冷たい海に囲まれているアイルランドの地理的条件がヘビの生息域の拡大を妨げたためとされています。つまり、聖パトリックがやってくる前から、アイルランドにはヘビがいなかったということです。
また、アイルランドのナショナル・カラーであり、セント・パトリックス・デーのシンボルカラーでもある緑色の司祭服を着た聖パトリックのイメージは誤りで、実際の司祭服の色は青だったとされる説もあります。
ちなみに、セント・パトリックス・デーのシンボルカラーである緑色は、聖パトリックが三つ葉のクローバー・シャムロックを手に『三位一体』(三位とは「父」と「子」と「聖霊」)を説いたとされていることが元になっています。
セント・パトリックス・デー発祥の地・アイルランド
アイルランドにおいて、セント・パトリックス・デーの3月17日は、キリスト教(カソリック)の行事である受難節の期間中にあたります。受難節の期間はキリストの苦難をしのぶために断食するのが習わしですが、セント・パトリックス・デーだけは例外とされ、聖パトリックをお祝いするための飲食が許されていました。
しかし、敬虔なカソリック信者が多いアイルランドでは、三つ葉のクローバー・シャムロックを服につけたり、協会のミサに参列するといったごく質素なものだったとされています。
その後、アメリカに渡ったアイルランド移民により、次第にセント・パトリックス・デーのお祭りとしての側面が強調されていったようです。発祥の地アイルランドでも、今やアメリカから逆輸入されたセント・パトリックス・デーの影響が随所に見られます。
現代版セント・パトリックス・デー発祥の地・アメリカ
現在私たちが目にするセント・パトリックス・デーのほぼ全てのスタイルを生み出したのが、アメリカです。アイルランド系アメリカ人の人口は約3,960万人(2015年調査)で、セント・パトリックス・デー発祥の地アイルランドの人口の約8倍です。
また、2012年に行われた調査では、アイルランド系以外の人種を含め、アメリカの成人男性の54%がセント・パトリックス・デーを祝うと答えています。これらのことからも、世界でセント・パトリックス・デーを祝う人が最も多い国はアメリカであると言って間違いないでしょう。
アメリカ人が始め、後に世界的に広まったセント・パトリックス・デーの習慣のひとつがセント・パトリックス・デー・パレードです。最初にパレードが行われたのは、アメリカ独立宣言がなされる14年前にあたる1762年で、場所はニューヨークでした。
また、アメリカのセント・パトリックス・デー・イベントとして有名なのは、1964年に始まったシカゴ川に緑色に染める行事です。日本では入浴剤として使われているフルオレセインという色素が使われています。
セント・パトリックス・デーの伝統的な料理
セント・パトリックス・デーの伝統的な料理として知られているのはコンビーフ・アンド・キャベツです。2-3時間ほど茹でた牛の肩ばら肉にゆでたキャベツを添えたもので、まさに「見た目より味で勝負」といった感じの伝統料理です。(実は「コンビーフ・アンド・キャベツ」はアメリカの料理で、アイルランドでは、「ベーコン・アンド・キャベツ」が一般的なのだそうです。)
セント・パトリックス・デーの伝統的な料理とは言えませんが、他にもお菓子などに緑の食紅を混ぜた様々な食べ物・飲み物が出されます。
とにかく緑ならなんでもOKという感じでしょうか。ちなみにセント・パトリックス・デーでよく使われる緑の食紅は、シカゴ川を緑に染めるのにも使われていたようです。
緑色をしたセント・パトリックス・デーの数ある食べ物や飲み物のなかで最も有名なのが、緑色のビールです。緑色の原材料は、こちらも緑の食紅ということで、特注でもしない限り、ライム味やミント味がするわけではないようです。ご興味のある方は、こちらのレシピ(?)をご参照ください。
世界中で1年間に消費されるビールの1%が、セント・パトリックス・デーの3月17日に消費されていると言われています。
また、ドラフト・ビールの醸造と世界記録を収録したギネス・ブックで有名なアイルランドの世界企業ギネス社が発表したデータによると、全世界で1日当たりに消費されるギネス・ビールが550万パイント(1パイントは568ml)なのに対して、セント・パトリックス・デーに消費されるギネス・ビールは、その2倍を上回る1300万パイントに達するそうです。(参照:St. Patrick’s Day Parade of Facts)
朝の10時からバーでビールを飲んでいたらアルコール中毒を疑われても仕方ありませんが、セント・パトリックス・デーのアメリカではそれが許されるのです。
ちなみにセント・パトリックス・デー発祥の地アイルランドでは、祝日ということもあって、ほとんどのバーやパブは閉店するそうです。
アメリカにおけるセント・パトリックス・デーと他のキリスト教系イベントの違い
セント・パトリックス・デーは、アメリカでは圧倒的なマジョリティーを形成するキリスト教徒のお祭りだったわけですが(ただしカソリック系はキリスト教徒の中ではマジョリティーとは言えません)、時代とともに宗教色が薄れ、今や商業的なイベントと化しているという点では、バレンタイン・デーやハロウィンと同じです。
ただ、バレンタイン・デーやハロウィンと違いがあるとすれば、飲酒行為がまるでセント・パトリックス・デーのイベントの一部のようにクローズアップされている点、アイルランド系アメリカ人という特定の人種グループに結びついている点の二つでしょうか。
2012年に行われた調査によると、アメリカ人の成人男女でセント・パトリックス・デーにお酒を飲むと答えた人は、全体の約20パーセント、また、10人に3人はバーやレストランに出かけると回答しているそうです。
セント・パトリックス・デーと飲酒行為が結びついている理由
建国当時からアメリカ社会で圧倒的マジョリティーを形成してきたイングランド系アメリカ人に対し、1800年代の半ばにアメリカに渡ってきたアイルランド系アメリカ人が置かれていた社会的な立場は決して恵まれたものではありませんでした。
アイルランド系アメリカ人は、宗教的な理由、あるいは教養がなく粗野な民族という偏見が理由で差別を受けたのです。アイルランド人と言えば酒好きで喧嘩っ早いというネガティブなイメージも、そうした偏見の産物です。
とはいえ、移民開始から200年余りが経過する過程で純粋なアイルランド系アメリカ人の人口比率は低下し、いまやアイルランド系白人としてマジョリティー・グループの一角を形成するに至っています。それは、これまでのアメリカ合衆国大統領45名のうち22名がアイルランド系という事実からも明らかでしょう。
そうした変化の過程を経た今もなお、アイルランド系アメリカ人の「酒好き」というイメージが生きながらえているのは、商業化されたセント・パトリックス・デーのマーケティング戦略として、そのイメージが巧みに利用されていることが原因と言えそうです。
日本におけるセント・パトリックス・デー
アイルランド大使館や在日アイルランド人コミュニティーを中心に、日本にセント・パトリックス・デーが紹介されたのは90年代初めでした。その後、東京や横浜などでパレードが行われるようになり、国際交流イベントとして徐々に認知されるようになりました。
ただ、バレンタイン・デーやハロウィンなどの他のキリスト教系イベントと比較すると、日本のセント・パトリックス・デーの商業化は進んでいないようです。
まとめ
ハロウィンを日本に根付かせるのに成功しつつある日本の経済界も、セント・パトリックス・デーを取り込むのは難しいと思います。
現実的とは言えませんが、仮にアメリカのように飲酒とセント・パトリックス・デーを結び付けたマーケティングを展開したとしても2015年度の国別アルコール消費量ランキングが24位のアイルランド、51位のアメリカに大きく水をあけられた86位の日本で、日本人には馴染みが薄いアイリッシュ・ビールを売り込むのは容易なことではないでしょう。(参照:世界・男性1人当たり飲酒量ランキング)
文化的背景をあえて無視し、何でもかんでも商業化するのもいかがなものかと思います。これまで同様、日本とアイルランドの友好を促進するための純粋な国際交流イベントとして定着させていくのが良いのではないでしょうか?
なお、日本におけるセント・パトリクス・デーの最新情報はセント・パトリックス・デーin JapanガイドのFBサイト、アイリッシュ・ネットワーク・ジャパンのWEBサイトを参照してください。