「あなたの留学の目的は?」留学コーディネータとして大学に勤務していたころ、相談にやって来る学生の皆さんには最初にこう尋ねていました。留学先として英語圏を選ぶ学生が圧倒的に多かったので、この質問に対しては「英語が話せるようになりたいから」という答えが最も多かったです。
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「英語を話せるようになりたい」理由は?
続けて、「英語が話せるようになったら、将来はどんなことがしたいの?」とたずねていたのですが、ここでほとんどの学生が言葉につまっていました。他人に自分の夢を話したくなかったのか、あるいは、そこまで考えていないかったのかもしれません。
なかには「国連で通訳として働きたい」とか「ブーツを作る職人になりたい」というような答えもありましたが、そうした回答はごく少数でした。ほとんどの学生は、ただ漠然と「英語が話せるようになりたい」という理由で留学を希望していました。
私が語学留学をお勧めしない理由
突然ですが、私は語学(とりわけ英語)の習得だけが目的なら、時間とお金を使って留学する必要はないと思っています。これは私自身の語学留学経験、外資系企業での勤務経験、そして大学の留学カウンセラーとしての経験に基づく結論です。主な理由はこれからお話しするたった二つのことに集約できます。
(理由その1)留学すれば英語がしゃべれるようになる?
まず、留学すれば英語が話せるようになるという考え方(幻想)の根拠について考えてみましょう。「語学の習得には、海外で生活することが近道だ。なぜなら、外国語を使う必要に迫られるからだ。」と考える人は少なくありません。確かに私もそう思います。
ただし「外国語を使わざるを得ない環境」を手に入れることは簡単なことではありません。日本人の学習意欲が高い英語の場合であればなおさらです。留学先で、授業の後に日本人留学生が集まり目的もなく時間を過ごすケースは少なくありません。また、寮やアパートの自室に戻ってネットに接続すれば、そこには日本語環境が待っています。
「日本人学生が少ない全寮制の学校に通い、ルームメイトは外国人と決まっていている」なら話は別ですが、そうでもない限りあなたが「英語を使わざるを得ない環境」を手に入れる保証はどこにもありません。
(理由その2)あいまいなゴール設定で、失われるお金と時間
そもそも「英語がしゃべれるようになる」とはどのような状態を指すのでしょうか?もう少し具体的にイメージできるように質問を変えてみます。
例えば「国連の通訳になりたい人」と「ブーツの職人になりたい人」では「身つけるべき英語」に違いはないのでしょうか?国連で通訳になるために必要とされる英語が身につかないからと言って、ブーツを作る職人になる夢をあきらめる必要があるのでしょうか。誰もがネイティブ・スピーカーのように英語を話す必要はあるのでしょうか?
目的が異なれば道具も異なる
例えば、近所の池でフナを釣りたいのであれば竹竿に糸と針、それに重りと浮きがあれば文句なしです。フナを釣るのに数万円もするグラスファイバー製の釣りざおや、電動リール、高級ルアーは必要ないと思います。
英語という道具でどんなことがしたいのか、これがわからないと明確なゴール設定ができません。どんな目標にも対応できるように立派すぎる道具を準備しようとしたものの、結局途中であきらめてしまっているようでは、何も手に入らないでしょう。
私が語学留学をお勧めしないのは以上の2つの理由によります。目標のないまま留学してもお金と時間を浪費してしまうだけです。まずは自分のやりたいことを考ることから始めるべきではないでしょうか?
それでも語学留学したいあなたへ
私は、すでに英語をがんばって勉強している人が「自分の英語がどれくらい通用するのか腕試しをしてみたい」という理由で海外にでかけるのは良いことだと思っています。その場合は、学生なら夏休みや春休みを利用して参加できる3~4週間程度の短期語学研修で十分だと思います。
「短期では短すぎる」「とにかく若いうちに一度海外でいろいろ経験して視野を広げたい」「今はやりたいことははっきりしないけど、留学中に見つかるかもしれない」という方もいると思います。そこで最後に考えていただきたいのは費用対効果の問題です。
例えば1年間北米に語学留学するための費用はどんなに安くても250万円前後だと思います。それに対して1か月の短期語学研修ならその約5分の1の約50万円、国内で1年間英会話学校に通うなら約40万円です。
費用対効果があいまいなもの(ゴールが設定できなければ無理もありません)へ投資する前に、本当に語学留学にそれだけの価値があるのか、ぜひもう一度お考えいただければと思います。