トランプ・安倍会談 アメリカのニュースメディアはどう報じたか

日本時間10月18日(金)朝(現地時間17日(木)夕)、トランプ次期アメリカ大統領と安倍首相の会談がニューヨークで行われました。約1時間30分の会談の中身は明らかにされていません。

「日本の首相、慌ててニューヨークを訪問」

直前に、トランプ次期大統領がこれまで敵対してきたロムニー前マサチューセッツ州知事を国務長官に指名するのでは?というブレイキング・ニュースが飛び込んできたため、アメリカのケーブルニュースメディアの扱いは「大統領選に勝利したトランプが初めて外国の首脳と面会」といった最小限のものとなりました。

左派系CNN、右派系FOXの報道内容にも大きな違いは見られず、会談前には、就任前の大統領が一国の首相の訪問を受けるというアメリカ側から見てもめずらしい出来事の背景について解説していました。

また会談後は「信頼関係を築いていくことができると確信の持てる会談だった」という安倍首相のコメントが伝えられたものの、会談の中身が公表されなかったため、ケーブルニュースメディアの扱いは極めて簡単なものでした。

「どうでもよいニュース?」は無視

ちなみに、日本のテレビニュースで取り上げられていた「お互いにゴルフ用品のギフトを交換しあった」件や、「娘のイヴァンカと娘婿が会談に同席した」件については、少なくともCNNとFOXに関してはこれまでのところ触れられていないようです。

ロムニーの件に加え、ドイツでメルケル首相と会談したオバマ大統領がトランプ政権が対ロシア外交でぎびしい立場をとるように要望した件など、他にもカバーすべきトピックが多かったせいもあると思います。

なお、アメリカのケーブルニュースメディアは、政治報道でこの手のソフトなネタを取り上げることは少ないと言えます。わざわざお金を払って見ている視聴者に対して、専門性の低い情報を提供していたのでは競争に勝ち残れない、ということでしょう。

安倍首相訪米の報道価値を葬った驚愕の速報

ところでトランプ・安倍会談の扱いを小さくさせたロムニー前マサチューセッツ州知事のトランプ政権入りの憶測ですが、このニュースがなぜそれほど大きく扱われたのでしょうか?

その理由を簡単に言うと、あまりにも意外だったからだと思います。

ロムニー前州知事は、政権二期目をねらったオバマ大統領と前回の2012年の大統領選挙戦を戦ったわけですが、当時トランプは、自分と同じ経営者としてのバックグランドがあるロムニーを支持し、同じステージに立って応援のスピーチをしたこともありました。しかし、ロムニーが選挙で敗北すると、手のひらを返したかのようロムニーをけなし始めたのです。

そうしたトランプの裏切りに、そうとう腹を立てていたはずのロムニーは、今回の大統領選挙でトランプが共和党候補に決まりかけた際、党主流派の立場にありながら、捨て身の覚悟で「トランプおろし」に打って出ました。

詳しい内容を事前に告げないまま緊急記者会見を開いたロムニーは「トランプは詐欺師だ。大統領にはふさわしくない」としてトランプ不支持を宣言し、すでに共和党内に顕在化しつつあった反トランプの流れに加勢しようとしたのです。

これに怒ったトランプは、地方遊説先に集まった聴衆を前に「みじめに負けた前回の大統領選で、さんざん寄付をねだっておきながら何をいまさら」と感情をあらわにしてロムニーをこき下ろしたのです。この「みじめに負けた」という表現は、選挙に敗北したロムニーの古傷に塩を塗り込む悪意に満ちたもので、大統領になろうとする人物に求められる寛容さを微塵も感じさせないものがありました。

あのトランプが偉大なリンカーンに例えられた!?

今回のトランプの行為は、識者の間ではおおむね好意的に受け止められています。政敵を巧みに登用したことでも知られる偉大な大統領エイブラハム・リンカーンに例えるコメントも少なくありません。

リベラルの論客で人気ラジオDJのアラン・コルムズも、「(同じく国務長官候補として名前があがっている)ジュリアーニ元ニューヨーク市長よりはずっとましで、ロムニーがトランプ政権に入ってくれれば安心だ」とFOXNewsラジオの番組内でコメントしています。

トランプの思惑とは?

トランプは、「大統領にふさわしくない」と自分を批判し、共和党での立場はおろか政治家としての将来さえも失いかけているロムニーにあえて手を差し伸べることで、自分にいまだに批判的な共和党主流派の支持獲得と、大統領選を通じて指摘され続けてきた「大統領らしさ」の欠如を補うことを同時に成し遂げよとしているようです。

なにはともあれ、週末に予定されているトランプとロムニーの会談が大いに注目されます。ロムニーが国務長官に就任すれば、トランプ政権の外交政策、とりわけ日本にとって重要な対中国、対北朝鮮政策の方向性も見えてくることでしょう。

まとめ

いまだに認めたくありませんが、やはり、良い意味でも悪い意味でも、ドナルド・トランプは規格外の人物だと言えそうです。今回の大統領選の結果については、ほとんどのメインストリーム・メディアが予想できませんでしたが、その要因のひとつが規格外なトランプの行動を予測できなかったからではないでしょうか?