巨匠マーチン・スコセッシ監督のライフ・ワークとも言うべき映画『沈黙-サイレンス-』が全米で公開されました。果たして観客の反応はどのようなものだったのでしょうか?
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オープニング・ウィークの興行収入
エンタメ系情報誌「ザ・ハリウッド・リポーター」によると、『沈黙-サイレンス-』の興行収入は週末(1月13日~15日)の3日間で190万ドル(劇場数747)と、期待を下回る結果に終わったようです。製作費5000万ドルが回収できるか否かは、日本を含む海外市場次第ということになりそうです。
なお同じく公開後最初の週末を迎えた映画では、ベン・アフレック監督主演の禁酒法時代のクライム・ドラマ『夜に生きる』が週末3日間で540万ドル(劇場数2,822)、家族向け映画『モンスター・トラック』が週末3日間で1050万ドル(劇場数3,111)という結果でした。
観客の反応は予想通り
人気映画情報サイト『Rotten Tomatoes』に投票されたスコアは14130件で5段階で平均3.7。(1月16日17時現在)平均3.5以上の好評価が71%ということでした。かろうじて好評価を確保したというところでしょうか。(ちなみに現在公開中の映画で興行収益トップは、NASAを支えた黒人女性たちを描く『Hidden Figures』でスコアが94%となっています。)
『沈黙-サイレンス-』の『Rotten Tomatoes』上の観客レビューは200件以上投稿されています。実際のレビューの一部を紹介しながら観客の反応に見られるいくつかの傾向についてまとめてみます。
肯定的なレビュー
スコセッシを敬愛する映画ファン
レビューの3分の1は熱心なスコセッシ・ファン、あるいは映画史や撮影技術にも詳しいマニアックな映画ファンからのものでした。今回の作品にも存分に用いられたスコセッシらしい手法(セットの細部やカメラ・アングルへの徹底的なこだわりなど)に賞賛が集まる一方、3時間を超える上映時間と、スローなテンポに対する率直な苦言が目立ちました。
【スコア5/5点】(男性)マーティン・スコセッシは、以前の作品『最後の誘惑』で試したテーマを探求しながら、『沈黙』を美しく、ショッキングで、力強く、見終わった後に長い間議論の対象となるような意義深さを備えた映画に仕上げた。
【スコア5/5点】(男性)この作品は現存する最も偉大な映画監督という唯一無二の称号をスコセッシに与えた。製作に要した偉大な30年は、黒澤明へのオマージュであり、また息を飲むほどの撮影技術とスタンディング・オベーションに値するアダム・ドライバーとアンドリュー・ガーフィールドの衝撃的な演技との一体化だった。完璧ではなかったものの、この映画は時代の試みを象徴する作品であり、スコセッシはこの偉大な作品で思い出されることになるだろう。
【スコア5/5点】(男性)この映画はひよっとしてスコセッシの傑作になるのかな。ロバート・デニーロの『ミッション』やトム・クルーズと渡辺謙の『ラスト・サムライ』と似たようなジャンルの、気持ちが高ぶるような映画だった。この映画ではゆるぎない信仰心が試される。アンドリュー・ガーフィールドは拷問という試練を受ける宣教師を演じたが、私の心をとらえたのは塚本晋也が演じたクリスチャン、あるいはイッセー尾形が演じた主任尋問官のキャラクターだった。それらは魅力的で今まで見たこともないようなキャラクターだった。
【スコア4/5点】(男性)解りやすいわけでも、見ていて楽しいわけでもないけれど、まあ間違いなく良い映画だ。テーマ的には『最後の誘惑』に似ている。
【スコア4/5点】(男性)マーティン・スコセッシがまたしてもやってくれた。『沈黙』は彼の情熱があふれたプロジェクトであり、長年生み出してきた驚くべき傑作の数々に加わった作品である。(略)日本人の出演者では、クリスチャンを痛めつける使命を負った尋問官を演じたイッセー尾形が一番印象的だった。
【スコア4/5点】(男性)人は誰しも、普通は楽しい時を過ごすために映画を見に行く。だけどリーアム・ニーソンと忍者が闘うのを楽しみにしてこの映画を見に行くとつらい目に合うよ。
【スコア3.5/5点】(男性)自然の素晴らしい活用と、黒澤明とデビッド・リーンをかけ合わせたような要素を持つ思慮深い映画。引きのショットと寄せのショットが物語を強調するために賢く使われている。ただ、スローな展開があまりにも多すぎたし、ひとつの状況を描くために30分も使うのはおそらくちょっと長すぎる。
宗教や信仰について考える機会
全体の2~3割の観客は、宗教や信仰について取り上げられた映画として『沈黙-サイレンス-』を見に行ったようです。スコセッシがイエス・キリストを描いた『最後の誘惑』と本作を比較しているレビューも20件以上目にしました
【スコア3.5/5点】(男性)信仰についていつも考えさせられる。答えは明らかなのに、自意識がそれを覆い隠す。この映画は物語の文脈や雰囲気が好きになれないが、発想と試みは良かった。
歴史が丹念に描かれていて興味深い作品
比較的少数ながら17世紀のイエズス会の布教活動や江戸時代の日本に関心のある観客もいたようです。宗教や信仰に関心を寄せるグループと同様、彼らのこの映画に対する満足度はかなり高かったようです。
【スコア4/5点】(男性)この映画は、日本側の見方を取り上げることなくクリスチャン側の視点からしか描かれていなかった。島原の乱にも触れなかったし(それが起きたことにさえも触れなかった)それが日本の為政者の政策決定にどのように影響したかも。それにも関わらず、『沈黙』は、とても良く出来ていた。演技も良かった、歴史の空想上の物語を良く描けていたし、本年度の多くの映画ランキングでべスト10入りするだろう。
否定的なレビュー
上映時間が長すぎる、展開がスローで退屈な作品
プロの批評家の多くも問題にしていた3時間を超える上映時間について、厳しい意見が目立ちました。映画の内容についての事前知識が少ない観客ほどこの点を問題にしており、最低レベルの満足度を示した人たちも多かったと思います。
【採点なし/5点】(性別不明)これまで見た中で最も長く、最も気持ちが萎える、最も退屈な映画だった。人生の3時間を無駄にした。映画の拷問。できることならマイナスポイントをあげたいくらい。
【スコア2/5点】(男性)寝ちゃったよ。幸運なことに座席の座り心地は良かった。
退屈で娯楽性に欠ける
『沈黙-サイレンス-』について事前情報を持たないまま劇場に足を運んだ人たちの多くが、娯楽性の欠如を指摘しています。そもそも、隠れキリシタンを描くこの映画に娯楽性を期待する方がどうかしていると思いますが、その反面、そうした観客の反応こそが『沈黙-サイレンス-』が「万人向けしない」映画であること、また、映画会社や投資会社にとってビジネス上のリスクが高い映画であることを如実に物語っていると言えます。
【スコア0.5/5点】(女性)ワオ、私の人生のこの161分間を二度と取り戻せないなんて。私は普段映画についてはポジティブなことしか言わないんだけど、この映画は今まで見てきた中で間違いなく最もひどい作品の一つになるわ。リーアム・ニーソンなんて10分ぐらいしか登場しないのにどうやったらあんなに出演料をもらえたのかしら。
【スコア2/5点】(男性)映画ファンは登場人物に感情移入するものだが、この映画の場合はエンドロールが流れ始めても何についての映画なのか、見るべきものが何だったのかよくわからなかった。映画製作の品質や教育的価値以外の娯楽体験について賞賛すべき点をあげるように言われたとしたら、私は『沈黙』するだろうね。
【スコア0.5/5点】(女性)私がこれまでに見た中でも最も退屈な映画の一つ。リーアム・ニーソンが出てたから見たのだけど。劇場にいた観客の半分は、映画が中盤に差し掛かる前に席を立っていたほど。いつか面白くなるだろうと思って見ていたけど、ハズレ。私が間違ってたわ。
スコセッシ作品としては出来が良くなかった
マーティン・スコセッシが30年近くかけて世に送り出す作品ということで、スコセッシ・ファンの期待もかなり大きかったようです。厳しい目で審査されたせいか、賞賛の声の一方で酷評も散見されました。
【スコア1.5/5点】(男性)アジア人のステレオタイプに満ちたひどい演技。スコセッシ殿は、この作品で外したよ。ひどい作品だ。
【スコア2.5/5点】(女性)この映画で私が気に入ったのはロドリゲスと井上の会話。特に井上はこの映画で間違いなく一番良いキャラクターだった。イッセー尾形はこの映画の中で一番素晴らしかったけど、あとの皆さんはまったく全然ダメだった。
まとめ
興行収益を少しでもアップするためにも、リーアム・ニーソン、アンドリュー・ガーフィールド、そしてアダム・ドライバーのキャスティングが重要だったことは観客のレビューにもよく表れていました。
それにしても、彼らだけが目当てで劇場のシートに腰かけた観客のレビューには、苦痛、眠気、やり場の無い怒り、そして強い後悔の念が個性豊かに表現されていて、読んでいて楽しめました。(苦笑)
日本人のキャストについて触れたレビューは、プロの批評家に比べれば圧倒的に少なかったと言えます。(イッセー尾形に加え、スコセッシが敬愛する黒澤明監督を引き合いに出すレビューがいくつかありました。)
巨匠スコセッシが30年かけて世に送り出した、日本が舞台の映画『沈黙-サイレンス-』。日本公開は1月21日土曜日からとなっています。