トランプの側近中の側近・スティーブン・バノンが欧米メディアに危険人物扱いされる理由

『アメリカで最も危険な政府職員(ブルームバーグ)』『オルタナ右翼の最も過激な排外主義者((フォーブス) 』欧米のニュースメディアが揃って危険人物扱いする男、それがトランプ政権の首席戦略官兼上級顧問のスティーブン・バノンです。どうして彼はこれほどまでに危険視されているのでしょうか。
Steve Bannon

理由その1:「オルタナ右翼」思想の持ち主だから

オルタナ右翼とは?

スティーブン・バノンが危険視される最大の理由は、バノン自ら認めている彼のオルタナ右翼思想にあります。オルタナ右翼の定義は確立されていませんが、AP通信では次のように解説しています。

トランプの指名を祝う2016年夏の共和党全国大会でメンバーが現われた時から、人種差別主義、白人ナショナリズム、そして古典的なポピュリズムが混在したイデオロギーを伴うオルタナ右翼は、集団的無意識に急速に浸透し始めた。(翻訳引用:AP

トランプ大統領本人は、当然ながらオルタナ右翼を支持しないと答えています。(なおトランプには、人種差別的言動に批判の目が向けられた過去があります。)

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”薄気味悪い”オルタナ右翼

過激な保守派としてかつてはCNNやFox Newsに出演していたラジオ番組ホストのグレン・ベックは、CNNのアンダーソン・クーパーの番組でオルタナ右翼思想とそれを支持するスティーブン・バノンに対する警戒を強めるべきだと主張しています。

保守派メディア企業『THE BLAZE』を経営するグレン・ベックとしては、この機会に商売敵のスティーブン・バノンを叩いておきたいだけかもしれませんが、オルタナ右翼を「気味の悪い連中」と表現する彼の主張にはやはり耳を傾けざるを得ない気がします。

なお、グレン・ベックは大統領選のかなり早い段階からトランプ不支持を表明していました。保守派に影響力があるベックから支持が得られなかったことに腹を立てたトランプは、すぐさまベックをツイッターで攻撃しています。

トランプに「犬のようにFoxをクビになった」と揶揄されたベック。犬になってます。

アジア人蔑視発言

ドナルド・トランプは、2015年11月5日にスティーブン・バノンのラジオ番組「ブライトバート・ニュース・デイリー」にゲスト出演した際、「ハーバードやイエールなどの有名大学で勉強したアジア人が、卒業すると国に帰ってしまうのは問題だ。優秀な連中なのだから、アメリカに留まらせて経済に貢献させるべきだ。」という趣旨でコメントしました。(参照:The Huntington Post)

それに対し、スティーブン・バノンは明らかに戸惑いを見せ次のように応じています。

シリコンバレーのCEOの3分の2、あるいは4分の3は、南アジア人かアジア人です。国家は、経済より大切です。我々は文明社会にいるのだから。(翻訳引用元:The Huntington Post

いかにも南アジアやアジアが文明社会に属していないと言いたげです。スティーブン・バノンが「馬脚を露した」と言えそうなこのコメントに対し、ドナルド・トランプは発言の意味を取り違えたのか「もちろん合法的に滞在させる」などと返し、その後話題はメキシコ国境の壁建設に移りました。

もし、ドナルド・トランプがオルタナ右翼思想の持ち主だったとしたら、スティーブン・バノンのコメントに対する反応は違うものになっていたのかもしれません。(もっとも、トランプも意図的に的外れな反応をして煙に巻こうとした可能性も否定できませんが…。)

理由その2:オルタナ右翼のニュースサイトを運営していたから

ブライトバートは、リベラル的傾向があるとされる主流ニュースメディアに対抗すべく、保守的な論調の記事で支持を伸ばしたオンライン・ニュースサイトです。

スティーブン・バノンは、2007年にストリーミング放送のキャスターとして採用され、創業者の一人が死去した後の2014年に会長に就任し、事業を拡大しました。最初は、親イスラエル的な保守系ニュースサイトだったブライトバートがオルタナ右翼傾向を強めたのは、スティーブン・バノンが指揮を執った後と言われています。

ブライトバートの記事のタイトルには「避妊は女性を醜くし、狂わせる」など過激なものが目立ち、ニューヨーク・タイムスからは「イデオロギーに基づくジャーナリズム」であり「女性蔑視、排外主義、人種差別主義に基づき物議を醸すような記事を掲載している」と批判されています。

また、スティーブン・バノンは、2016年7月のインタビュー「ブライトバートはオルタナ右翼のプラット・フォームだ」と自ら答えています。自分がオルタナ右翼思想の持ち主だと公言したに等しいこの発言が、スティーブ・バノンを危険視する人たちの揺るぎない根拠となっています。

理由その3:イスラム教勢力、あるいは中国を極度に警戒し、中国との戦争を予想する発言をしているから

スティーブン・バノンは、イスラム文化圏や中国がユダヤ-キリスト教文化圏とやがて対決することになると何度も主張しています。2016年2月に放送されたスティーブン・バノンのラジオ番組ブライトバート・ニュース・デイリーでは、以下のように発言しています。

イスラム拡張主義者は存在するし、中国の拡張主義者も存在する。そうですよね?彼らは動機付けられています。彼らは傲慢です。彼らは前進し続けています。そして彼らはユダヤ-キリスト教の西側陣営が後退していると考えているのです。(翻訳引用元:the guardian)

また、2016年3月の放送では中国の南シナ海進出に関して次のように発言しています。

我々は、5年から10年以内に南シナ海で戦争に突入するでしょう。それは疑いようがない。彼らは砂州を築き、基本的に常駐航空母艦を造り上げ、そこにミサイルを配備しました。

彼らは我々アメリカの顔の前まで来て、顔(訳者注:面子)がどれほど大事なのは分かりますよね、それが古来からの領海だと言ってきたのです。(翻訳引用元:the guardian)

これらのラジオ番組は有料会員向けに放送されたものです。したがってリスナー獲得のために内容を誇張して放送していた可能性は否定できないと思います。

とは言え、スティーブン・バノンという人物が、つい1年ほど前まで、公の場でこうした過激な発言をしていたのは紛れもない事実です。同じ人物がアメリカ合衆国大統領の外交政策に影響を及ぼす立場にいることを、欧米のニュースメディアが問題にするのは至極当然と言えるでしょう。

理由その4:性格が悪く、思考や発想自体が危険だから

スティーブン・バノンの人物像ですが、ホワイトハウス入りが確実視されるようになった頃から、過去に反ユダヤ主義的な言動をしていたことを離婚した元の妻が証言したり、ブライトバートの元人気ライターでコメンテーターのベン・シャピロが性格の悪さを暴露するなど、元々悪かったスティーブン・バノンのイメージはトランプ政権発足目前でさらに悪化していきました。

そうした状況に危機感を持ったのか、スティーブン・バノンは週刊誌ハリウッド・リポーターの独占インタビューに応じます。

インタビューを行ったマイケル・ウルフはMSNBCの番組に出演した際、スティーブン・バノンの印象を「知的な人物だった。ニュースメディア向けの情報発信は混乱を招くことを計算してわざと仕掛けている。メディアにショックを与え、それがうまくいと喜んでいるという印象を持った」と話しています。

インタビュー記事の中で最も注目を集めたのは、スティーブン・バノンの以下のコメントです。

暗黒は良い。ディック・チェイニーしかり、ダースベイダーしかり、サタンしかり。それはパワーだ。それは間違いが起こったときに我々を助けてくれる。我々が自分が誰なのか、何をしているのかを見失ったときに・・

ダースベイダー、そしてサタンと同列に扱われたディック・チェイニー元副大統領が少し気の毒な気もいたします。

Az elnök első embere

同じインタビューで自らを「白人国家主義者ではないが国家主義者だ」と称したスティーブン・バノン。トランプ政権発足の1週間後には「マスコミは野党」「黙って聞いていろ」等と暴言を吐き問題となりました

ただ、その直後には世界規模で抗議の的となった中東7か国渡航禁止措置が発表されたことで、スティーブン・バノンはまんまとメディアの追及をかわしています。このあたり、ハリウッド・リポーターのインタビューにあったように、計算に基づきタイミグを図ったうえで行っているのかもしれません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。メディアの偏見で多少誇張されているとは思いますが、スティーブン・バノンという人物がかなり強烈な個性の持ち主であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

なおドナルド・トランプが大統領選の第一回目のテレビ討論会で劣勢に立たされた後、「もっと攻撃的になれ」と指導したのはスティーブン・バノンだと言われています。現在のトランプの言動に最も影響を与えているのも彼だと考えてほぼ間違いないのではないでしょうか。

ところで、このオルタナ右翼という言葉ですが、グレン・ベックもCNNとのインタビューで8か月前まで知らなかったと言っているように、アメリカでも一般にはほとんど知られていない言葉のようです。今後さらに注目されれば、日本のマスコミや左派が使いはじめるかもしれませんね。


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