アメリカ現地時間2月28日午後(日本時間3月1日午前)に、トランプ大統領が上下両院合同会議で行った初めての施政方針演説ですが、今や宿敵となったCNNをはじめ、多くのアメリカの主流ニュース・メディアは好意的に取り上げたようです。
もはやトランプの宿敵となったCNNの意外な反応
演説終了直後のCNNのスタジオには、いつも通り反トランプ色の強いキャスターと解説者の面々がスタンバイしていたのですが、最近は割とフェアな報道姿勢が目立つアンダーソン・クーパーはともかく、トランプ大統領誕生時に「これは白人の逆襲だ」とまで言ってのけたリベラル政治評論家ヴァン・ジョーンズの好意的な反応には驚かされました。
今回のトランプ大統領の演説が(少なくとも演説終了直後は)CNNの解説陣に好意的に受け止められた主な理由ですが、以下のポイントによるものだと思います。
- これまでの選挙キャンペーンモードを引きずったような演説に比べるとトランプが「大統領らしかった」から。
- (スティーブン・バノンなのか、イヴァンカの夫なのか分からないが)スピーチ・ライターの原稿が素晴らしかったから。
- トランプ大統領もプロンプターの扱いに慣れたのか、演説の技術が向上したから。
- 民主党が理想とする高福祉型社会、つまり「大きな政府」を目指してるかのような政策が示されたから。(これは「小さな政府」を目指す共和党の基本政策とは相容れないはずで議会の協力が得られるのか疑問だ。)
トランプのあまりの変貌ぶりに、演説終了直後は軽い興奮状態に陥ったCNN出演者達でしたが、この記事を書いている時点では、すでに数字上の矛盾点などを指摘した上で批判を展開しつつあります。(さすがCNNですね。)
トランプ批判の急先鋒、あのヴァン・ジョーンズも感動した瞬間とは?
今回のトランプ大統領の施政方針演説には、あのヴァン・ジョーンズをして「アメリカの政治史において最も素晴らしい瞬間の一つだ」とまで言わしめた瞬間がありました。
その瞬間をもたらしたのはトランプ大統領の娘イヴァンカ、・・・ではなく、イヴァンカの隣に立っていたキャリアン・オーウェンズという女性でした。彼女はトランプ政権下で初めて行われたイエメンでの対テロ軍事作戦で命を落とした海軍特殊部隊ネーヴィー・シールズの隊員ウィリアム・ライアン・オーウェンズの未亡人です。
それではトランプ大統領がウィリアム・ライアン・オーウェンズに触れた部分をスピーチ原稿から抜粋・翻訳してみましょう。
我々が国家として直面するチャレンジは強大だ。しかしながら、我が国民はさらに強大なのだ。そして制服に身を包んでアメリカのために戦う者達以上に偉大で勇敢な人達はいない。
今晩、我々は海軍特殊部隊の上級下士官ウイリアムズ”ライアン”オーウェンズの未亡人、キャリアン・オーウェンズをお迎えする栄誉に恵まれた。勇者であり英雄として生きたライアンは、我々の国家に安全をもたらすために、テロとの戦いで戦死したのだ。
議事堂の全員がスタンディングオベーションでオーウェンズ夫人に拍手を送ります。この時点で彼女はまだ着席したまま、必至に涙をこらえようとしていました。
ただ、トランプ大統領が続けた演説の次の部分で彼女の様子が変化します。
私は先ほど戦果を確認したマティス国防相と話したのだが、彼は私にこう言った。「ライアンは、将来に渡りおさめることになるであろう、敵との戦いにおける数多く勝利に我々を導く膨大で価値のある情報をもたらした極めて優れた襲撃部隊の一員だった」
ライアンの遺産は永遠に刻み込まれたのだ。
演説のこの部分で、溢れ出る涙もそのままに立ち上がったオーウェン夫人は、おそらく自分の夫に対して力強く拍手しながら天を仰ぎます。ここで再びスタンディングオベーションが起こり、おそらく2分以上拍手が続きます。その間、オーウェン夫人は歓喜の表情を浮かべながら天国の夫ライアンに語り掛けているように見えました。
拍手がようやく鳴りやむと、トランプ大統領は原稿にないアドリブで夫人に語りかけました。
今、ライアンは我々を見ている。分かりますよね。ライアンは喜んでいるに違いない。今新記録を打ち立てたから。
2分近く鳴りやまなかった拍手のことを指して冗談を言ったトランプ大統領に、夫人は涙があふれた目で笑い返します。
トランプ大統領はウィリアム・ライアン・オーウェンズに触れた部分を以下のように締めくくりました。
聖書は、自分の命を友人に捧げることほど愛の行いとして偉大なことは無いと説いている。ライアンは彼の命を、彼の友達と、彼の国と、自由のために捧げた。我々は決して彼のことを忘れないだろう。
以下が映像です。
演説のこの部分に多くのアメリカ人が感動したことは想像に難くありません。スピーチの内容もさることながら、オーウェン夫人の気丈な振る舞いに胸を打たれます。
軍事作戦には批判の声も
一方、既に報道されているように、今回のイエメンでの軍事作戦には疑問や批判の声が上がっていました。オーウェンの犠牲以外にも、死亡したアルカイダのアメリカ人幹部の娘とされる少女が犠牲になったほか、作戦に使用された航空機に損害があったことなどが理由とされています。
なお、退役軍人で元刑事のオーウェンの父親は、今回の軍事作戦に関する調査を訴えており、トランプ大統領の面会希望も拒否しています。
また、今回のトランプ大統領の演説内容に対しても「軍事作戦の失敗から国民の目をそらそうとする企み」として、あるいは「死者を政治的に利用した」として、早速非難の声が上がっているようです。
まとめ
就任直後としては最低水準の支持率にあえぐトランプ政権が、今回の演説である程度劣勢を挽回したことは間違いありません。
ただ、CNNの解説陣もコメントしていたように、ポピュリズム的な内容であった事は否めないと思いますし、実際に全ての項目に着手し、実現するのは容易ではないと思います。
日本に関わる部分としては、米国企業と並んでソフトバンクが雇用拡大につながる投資を計画する企業として好意的に紹介されたこと、アメリカの外交姿勢示す際に「かつての敵国と緊密な友好関係を結んでいる」と暗に日本にも言及したこと、貿易交渉では何よりも公正さを重要視するとしたこと、ヨーロッパ、中東、太平洋の安全保障に関与するが基地経費の公平な負担を求めるとしたことなど、特に目新しいものではありませんでした。(演説のトーンにも大きな違いを感じませんでした。)
個人的には、トランプ大統領の演説内容そのものよりも、オーウェン夫人の姿勢に心を動かされました。夫を亡くした悲しみ、あくまでも想像ですが、政治的に利用される可能性について義理の父親や周囲から反対や忠告を受けつつも最終的に議事堂に赴いた彼女の心境、そして夫が受けた最高レベルの栄誉に対する喜びが複雑に交じり合う様子が伝わってきました。
彼女に一日も早く心の安らぎが訪れることを祈るばかりです。
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