『ラ・ラ・ランド』現実と幻想を完璧に行き来する映画【映画レヴュー】

映画という娯楽が果たしてきた役割のひとつが、映画的マジックを駆使して観客を現実逃避させ、その魂を救済することです。『ラ・ラ・ランド』は、映画的マジックを究極レベルで駆使して製作されてきたミュージカル映画と、それを育んできたハリウッドという街に対する美しいオマージュです。

2016年アメリカ(上映時間)128分(原題)La La Land(監督/脚本)デイミアン・チャゼル(撮影)リヌス・サンドグレン(音楽)ジャスティン・ハーウィッツ(主演)ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J・K・シモンズビル、ジョン・レジェンド

あらすじ

夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指していたが、何度オーディションを受けても落ちてばかり。

ある日、ミアは場末の店で、あるピアニストの演奏に魅せられる。彼の名はセブ(セバスチャン)、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。

やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合う。しかし、セブが店の資金作りのために入ったバンドが成功したことから、二人の心はすれ違いはじめる……。  (引用:公式サイト

見どころ

ミュージカル映画では、現実と幻想を自然に美しく橋渡しするために、現実にファンタジーの要素を、反対に幻想には現実的な要素をそれぞれ加えてやる必要があると思います。

このさじ加減に問題があると、観客は現実逃避に失敗し、突然歌い出したり、踊ったりする出演者達に違和感を感じることになります。劇場では全く気にならないそうした違和感は、映画館ではなぜか増幅されてしまうのです。

『ラ・ラ・ランド』にはファンタジーが溢れていますが、リアリティをほとんど犠牲にしていません。私はこの作品の現実と幻想の絶妙なバランスを保っていたのは、デイミアン・チャゼル監督の演出と、ジャスティン・ハーウィッツの音楽、そしてデビッド・ワスコの美術だと思います。今回は、演出と音楽について触れてみたいと思います。

長回しによる舞台的な演出がもたらすリアリティ

デイミアン・チャゼル監督は数多くのシーンで長回しによる撮影を行ってましたが、これが俳優の演技に緊張感とリアリティを生み出し、作品の質を高めていたと思います。

とりわけ効果的だったのが、セバスチャンがミアにオーディションの結果を伝えるためにネバダの実家を訪ねた場面です。かなり長いシーンでしたが、エマ・ストーンの素晴らしい演技に支えられ、この映画の中で最も印象深いシーンの一つになったと思います。

また、場面を暗転させるという伝統的で舞台的な演出手法も、現実と幻想を共存させる手法として極めて有効だったと思います。これらのスタイルは、1950年代のミュージカル映画を彷彿とさせるもので、デイミアン・チャゼル監督のクラシック・ミュージカルに対する情熱と深い愛情、そしてスタイルに対する確信を感じさせるものでした。

ミュージカル映画の新たな伝説となるメロディー・ライン

ジャスティン・ハーウィッツの音楽は、この10年間でハリウッドが手に入れた最も偉大な才能の一つだと思います。特にアカデミー最優秀歌曲賞を受賞した「シティ・オブ・スターズ」のメロディ・ラインは、どこにこんな金塊が眠っていたのか、と驚かされるほどオーセンティックで美しいものでした。

にわかに信じられませんが、今回の撮影がピアノ初挑戦というライアン・ゴズリングでも演奏可能なシンプルなコード進行ながら、ピアノ伴奏、カルテット、ビッグ・バンドといったスタイルにも見事に展開できるパワフルさを兼ね備えていました。

『セッション』に続いて彼のジャズは充分堪能できたので、次回はぜひ本格的なフルオーケストラの作品を聴いてみたいです。

今回の酔い加減査定

最高酔える度5~最低酔えない度1

特殊効果やCGが無かった時代、映画的マジックと言えば人々を現実のくびきから解き放つ夢のような感覚だったのです。オールドファンにはその感覚を思い出させ、新しい映画ファンには新感覚としてそれを紹介したデイミアン・チャゼル監督の功績は大きいと思います。

また、世界中から集まる夢追い人と、莫大な富を手にしたセレブ達が共存する、どこか非現実的な街ロサンゼルスは『La La Land』の影の主役として見事に描かれていました。

まとめ

デイミアン・チャゼル監督は来日時の記者会見で「1965年の日本映画『東京流れ者』(製作:日活、監督:鈴木清順、主演:渡哲也)を隠れたオマージュにした」と語ったそうです。

鈴木清純監督と言えば、奇想天外なストーリーラインで有名ですが、海外での知名度は黒澤、小津、伊丹と比べれば決して高くない監督だったと思います。

デイミアン・チャゼル監督が鈴木清純監督を研究していたのを知ってさすがだと思いましたが、現実と幻想を行き来するという点では先駆的な映像表現にチャレンジしてきた監督でしたし、チャゼル監督が参考にしたというのも頷けます。

鈴木清純監督もハリウッドの次代を担う監督にご自身の影響が及んでいた知って、草葉の陰から喜んでおられるのではないでしょうか?


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