『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』がシリーズの救世主になるかもしれない理由(映画レビュー)

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年/アメリカ/2時間13分)

物語の舞台は、『スター・ウォーズ エピソード4新たなる希望』の少し前。銀河全体を脅かす帝国軍の究極の兵器<デス・スター>。無法者たちによる反乱軍の極秘チーム<ロ―グ・ワン>に加わった女戦士ジン・アーソは、様々な葛藤を抱えながら不可能なミッションに立ち向かう。
その運命のカギは、天才科学者であり、何年も行方不明になっている彼女の父に隠されていた・・・。(引用元:公式サイト

(監督) ギャレス・エドワーズ(キャスト) フェリシティ・ジョーンズ、ディエゴ・ルナ、リズ・アーメッドベン、メンデルソーン、ドニー・イェン、フォレスト・ウィテカー

主な見どころ

全ての伝説が始まるきっかけとなった1977年に公開された『スター・ウォーズ エピソード4新たなる希望』は、どうして人々に熱狂的に受け入れられたのか? 第一作公開から40年が経とうとする今、その答えを私たちに教えてくれる作品が『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』です。

スター・ウォーズ・シリーズの生みの親ジョージ・ルーカスが意図した「スペース・オペラ」のエッセンスが凝縮されたシリーズ最新作には、オールドファンが喜ぶ”イースター・エッグ”が満載されているだけでなく、新しい観客を引き込みながら既存の作品群全体をリプートするキック力を備えています。まさにシリーズの救世主的な作品、それが『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』です。

シリーズの正統的後継作品の証し:テーマ設定とテンポの良いストーリー展開

洗練された特殊効果技術に支えられた幻想的でリアルな宇宙空間を舞台に、スター・ウォーズ・シリーズに共通する「自己犠牲を伴う愛」、「立場の違いを乗り越えた友情」、「自分を信じて困難に立ち向かう勇気」、そして「未来への希望」といったテーマで物語が展開します。

シリーズの伝統ともいえるクラシカルな場面転換で進行していくストーリーは、2時間を超える上映時間が短く感じられるほど、最初から最後まで勢いとリズム感を維持しています。


また、シリーズに新鮮な風を送り込んでくれた新登場の”南国リゾート風”惑星は、似たような惑星を行ったり来たりさせられた結果混乱状態にあった観客を救い出してくれました。(ビーチを進むストームトルーパーの映像は、Youtube上に氾濫するパロディ映像と違って本当にCoolでした!さすが本物。)

シリーズ屈指の戦闘シーン

戦闘シーン、とりわけCGの依存度が低いクライマックスの地上戦の描き方は、ディズニー作品としてはかなりリアルです。

これまでの『エピソード2クローンの攻撃』のクローン戦争勃発シーンや、『エピソード1ファントムメナス』のナブーの戦い、あるいは『エピソード6ジェダイの帰還』のエンドアの戦いに比べると戦争の凄惨さが強調されています。

この後に続く『エピソード4新たなる希望』につながる重要な布石ですが、『プライベート・ライアン』に匹敵する戦闘シーンと評価する人がいたほど、印象深いシーンでした。

”ワイルド系レイア姫”と”中国系座頭市”

旧3部作のキャラクターも合わせると結構な数のキャラクターが登場しますが、キャラクターの掘り下げがきちんと行われているので、観客が混乱することは無いと思います。

フェリシティ・ジョーンズが演じるジン・アーソは、”ワイルド系レイア姫”と言った感じの魅力あふれる愛すべきキャラクターです。本作は全体的に硬派な印象の映画なので、ディエゴ・ルナが演じる兵士とのラブ・ロマンスをもう少しだけ掘り下げてみても良かったと思います。

また、ドニー・イェンが演じた盲目の僧兵も期待を大きく上回る出来でした。”ジェダイのようでジェダイじゃない座頭市”、もしくは”イップ・マンのようなマーシャルアーティスト”に、フォースに対する憧れ?あるいは信仰?を語らせるというアイデアは見事でした。

『エピソード7フォースの覚醒』で株を下げてしまった感じのフォースのありがた味を下支えした功績は極めて大きいと言えるでしょう。(エピソード8の演出にも反映させてほしいものです。)

難しいPrequel作品ながら、ルーカスお墨付きの完成度

スター・ウォーズの代表作『エピソード4/新たなる希望』のPrequel(前編)である『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の大半の観客は、映画が始まる前から物語の結末を知っています。ストーリーを語るうえで、これはかなり厄介なことです。

ギャレス・エドワーズ監督は、『タイタニック』など有名な史実をテーマにした映画と同様に、お話の結末とは別に物語のクライマックスを設定し、そこに向けて観客の興奮を高める手法をとっています。願わくば観客にお話の結末を忘れさせたかったところですが、『スター・ウォーズ』マニアにそれを期待するのはほぼ不可能でしょう。

ただ、ギャレス・エドワーズはその難しい課題に果敢に挑戦し、見事に結果を残しています。それは、ギャレス・エドワーズの前にPrequel作品であるエピソード1から3までを自ら監督したものの、万人が認める成功を収めることができなかったジョージ・ルーカスが『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を評価していることからも明らかです。

この難しい課題を解決したものは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と『エピソード4新たなる希望』との見事な一体感ではないでしょうか。スター・ウォーズ愛に満ちあふれたILMスタッフの力によるところが大きいと思いますが、『エピソード7フォースの覚醒』でハン・ソロと別れた直後のチューバッカとレイア姫を他人同士のように扱った(※)J.J.エイブラムスをはるかに凌ぐ物語に対する深い愛情と理解がギャレス・エドワーズになければ、それは実現できなかったでしょう。

※スター・ウォーズ・ファンを自認する御本人は、問題のシーンを後悔しているようです。キャリー・フィッシャーとジョージ・ルーカスが元気なうちに、一日も早く撮り直して欲しいところです。【追記】この記事を書いた数時間後にキャリー・フィッシャーさんが亡くなりました。まだ60歳と若かったのに残念です。謹んでご冥福をお祈りします。(参照

報われたギャレス・エドワーズ監督のチャレンジ精神

ジョージ・ルーカスは、一部の批評家やファンに酷評されたエピソード1から3、そして自ら監督しなかったエピソード5と6を含めたスター・ウォーズ・シリーズについて、「自分は観客のノスタルジーに訴えるのではなく、常に新しい挑戦をしてきた」と語っています。それは、新三部作立ち上げに際しリスクを避けたためか、既視感が強いシーンが目立った『エピソード7フォースの覚醒』に対する批判であり、シリーズの生みの親としてのプライドの表明だったと思います。

ギャレス・エドワーズ監督による『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が、話のつじつま合わせのために作られた金儲けのためのお手軽作品でないことは明らかです。

『エピソード4新たなる希望』に登場する短いセリフを元にほぼ全てのキャラクターを新しく創造するというリスクを冒し、全く新しい物語を作ったギャレス・エドワーズをジョージ・ルーカスが評価したのも頷けます。

プロデューサーの勝利

これまでのところ批評家や映画ファンからの評価も高く興行収益も好調のようです。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は単体作品としての成功はもちろん、ほぼ40年前の作品である『エピソード4新たなる希望』を含むスター・ウォーズ・シリーズ全体に新たな価値を加えることになりそうです。

プロデューサーはスピルバーグのSF作品の大半とバック・トゥ・ザ・フィューチャー・シリーズなどを手がける大物、キャスリーン・ケネディです。監督の才能を信じ、新しいチャレンジをサポートした手腕はさすがとしか言いようがありません。(『エピソード7フォースの覚醒』には失望させられましたが…。)

加えて、古くからのファンの納得が得られる形で、スタジオの望み通り中国市場対策にも取り組みました。オビ・ワン・ケノービ役をオファーされた三船敏郎以来の”幻の日本人キャスト”誕生は先延ばしになりましたが、今は”スター・ウォーズ不毛の地・中国市場”が活性化するのを祈るばかりです。

今回の酔い加減査定

(最高酔える度+5~最低酔えない度-5)

 酔い加減+4

盲目的とも言える程の賞賛と、関連グッズ・コレクターを含む熱狂的なマニアの存在ばかりに注目が集まりがちな今日のスター・ウォーズ人気ですが、そのきっかけを生み出した特殊効果の技術革新と、それが可能にした大人の鑑賞にも耐えるSF映画の「スペース・オペラ」スタイルは、ハリウッドの主流としてすっかり定着し、もはやスター・ウォーズの専売特許ではありません。

ただその一方で、キャラクターやセットのデザイン・コンセプト、あるいはジョン・ウイリアムズが作曲したサウンド・トラック、そして何よりもスター・ウォーズ・シリーズに共通して描かれてきた普遍的なテーマは、これからも永遠に輝き続けることでしょう。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』はそのことを思い出させてくれる作品です。

豆知識

20年前に亡くなった名優ピーター・カッシングが演じていたデス・スターのターキン総督は、容姿が似ている俳優ガイ・ヘンリーの演技にカッシングのイメージをCG合成して再現したものです。

あまりにも見事な出来栄えに驚きの声が上がる一方、死後の俳優の肖像権について議論が巻き起こっているようです。なお、本人の死後にCG処理された映像が映画で使われた例としては、撮影中に事故死したブランドン・リー(ブルース・リーの息子)が主演した1994年の「クロウ/飛翔伝説」が知られています。


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