人事担当者は参考にした方が良いかもしれない?アカデミー賞「作品賞取り違え事件」の教訓

第89回アカデミー賞授賞式作品賞取り違え事件が発生してから間もなく1週間。世界中を騒がせたあの出来事の全貌が明らかになりつつあります。そこには企業の人事担当者が教材として使えそうな(?)教訓が隠されていました。

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世界最大の会計事務所がアカミー賞で果たしてきた役割

アカデミー賞の投票権を持つアカデミー会員からの投票受付から、授賞式当日に受賞結果をプレゼンターに渡すところまでを一括管理しているのは、世界4大会計事務所の一角を占めるプライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)です。

PwCはロンドンを本拠地とし、世界159カ国に180,000人のスタッフを擁する世界最大級のプロフェッショナルサービスファームで、2009年には「最も魅力的な企業トップ50」において世界第2位、2013年には「世界で最もパワフルなブランド」において、フェラーリ、グーグル、コカコーラに次いで世界第4位を獲得しています。

アカデミー会員による最終投票は授賞式の一週間弱前に締め切られ、PwCが最終投票結果を集計します。そうして作成された受賞者宛ての封筒は一旦金庫に保管された後、会計士2人が専用のカバンで授賞式会場に持ち込みます。

ちなみに、現在の方法が採用されたのは1940年からで、それ以前は各賞の受賞者・受賞作品は報道関係者宛てに事前に通達されていました。ルール変更のきっかけは、ロサンゼルスタイムスによる1939年の『風と共に去りぬ』作品賞受賞のリークだと言われています。

ハリウッドセレブ気取りの会計士

第89回アカデミー賞で授賞式会場に封筒を持ち込んだPwCの会計士は、マーサ・ルイーズさんとブライアン・カリナンさんの2人です。持参したバックから24通の封筒を順番通りにプレゼンターに渡す(どちらか1組は予備)という単純作業をこなすためにPwCから派遣された2人は、タキシードとドレス姿でステージの上手と下手に分かれて待機していました。

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作品賞の封筒と、主演女優賞の予備封筒を取り違え、ウォーレン・ベイティに渡したのは右側の男性カリナンさんです。彼は2014年の授賞式から受賞結果の会場持ち込みを担当しています。

事件の後、「ある事情」から彼のツイッターアカウントが注目されたのですが、バラエティーの報道によると、カリナンさんはかなりの目立ちたがり屋のようです。ニュースメディアの取材を積極的に受けていたほか、今回の授賞式の企画として自分が出演するスキット(寸劇)についてアカデミー側に自ら提案した、とされています。

記録されていた事件発生の経緯

ところで、今回のアカデミー賞授賞式をテレビで見ていた視聴者の多くは、おそらく次の疑問を抱いたはずです。

「封筒をウォーレン・ベイティに渡した担当者は、ベイティが作品名を読み上げた時点で間違いに気づいたはず。それなのにどうしてもっと早く対応しなかったのだろうか?」

PwCの社員とは言え、いわば封筒の運び屋である2人は内容を知らない可能性もありますが、ショーの進行責任者であるステージマネージャーによると、授賞式に立ち会う2名は計24部門の全受賞者・受賞作品を全て暗記しているそうです。(参照:The Warp)

であれば、なぜ、カリナンさんはウォーレン・ベイティがアカデミー賞の中でも最も重要とされる作品賞について誤った内容を読み上げたことに気づかなかったのでしょうか?

その答えがこちらの写真です。

カリナンさんはスマートフォンの操作に忙しかったのです。しかも、ショーの進行状況を確認したリ、会社に進捗状況を報告していたのならまだしも、彼はツイッターをしていたのです。

そして、カリナンさんがフォローワーと共有していたのがこちらのツイートです。(オリジナルは既に削除されています。)

バックステージで彼が撮った主演女優賞受賞者エマ・ストーンの写真です。送信時間は午後9時05分。おりしもウォーレン・べイテイが「主演女優賞・エマ・ストーン」と書かれたカードを持ってステージで悪戦苦闘していたのと同じ時間帯でした。ちなみにPwCは、カリナンさんにバックステージ情報をツイッターで紹介する事について業務上の指示はしていないと明言しています。

騒ぎに気付いたカリナンさんとマーサ・ルイーズさんがステージ上に駆け付けた時には、もう何もかもが手遅れでした。

皮肉なことにルイーズさんの赤いドレスが、うろたえる2人の様子を人々が見つけるのを助けることになってしまいました。

こうして世界的大企業に勤務する2人のエリートは、高いサラリーに見合うとは思えない単純作業で歴史的ミスを犯してしまったのです。

アカデミー賞史上最悪の事件が残した教訓

単純作業でミスをした経験くらい誰にでもあるはずです。ただ、世界中でこの先数十年先まで語り継がれるような単純ミスをした人は、たとえ地球規模で探したとしても、そう簡単には見つからないでしょう。

「セレブ気取りの会計士がハリウッドスターを前に舞い上がってしまった」と言えばそれまでですが、いったい今回の単純ミスの原因は何だったのでしょうか?私にはそこに学ぶべき教訓があるように思えます。

授賞式を担当するのは、カリナンさんが4回目、ルイーズさんが担当するのは2016年に次ぐ2回目でした。(下は2016年の授賞式)今回の単純ミスの背景には、慣れから来る油断、慢心があったのかもしれません。「どんなに優秀な人であっても、油断したリ、慢心すると歴史的単純ミスで人類史に恥ずかしい足跡を残すことになる」と言えるのではないでしょうか。

まとめ

世界中が見守るライブ・ステージであれだけ重要な役割を任されたのだから、普通の感覚なら例え何十回担当しようが、何百回担当しようが、慢心におちいることは無いと思うのですが…。肉体的に、あるいは精神的に、本当に正常だったのか多少気になります。

新たに明らかになったこのカリナンさんのプロファイルを見る限り、これほどあの仕事に向かない人もいないのではないかと思えるほど自己顕示欲が強い人でした。特にツイッターアカウントのヘッダー写真とプロファイル写真には唖然とさせられました。(アカウント自体がまだ残っているのが不思議です。スケープゴートにされているのでしょうか?ちょっと気の毒な気もします。)

それではこの仕事に向いているのはどんなプロファイルの人なのでしょうか?答えは、カリナンさんと全く正反対のプロファイルの持ち主、つまり自己顕示欲が無いに等しい、こつこつと仕事に取り組むタイプの人でしょう。言い換えれば、レッドカーペットが最も似合わない人、でしょうか…。

その意味では、カリナンさんを人選した(そしてその人選を承認した)PwCの上司達の責任も極めて重大だと思います。

ちなみにPwCはカリナンさんとルイーズさんを担当から外すものの解雇する考えは今のところ無いそうです。優秀な人達であることに間違いないのですから、新しい職場で心機一転活躍されるに違いありません。

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