ジャッキー・チェンのオスカー受賞に象徴されるハリウッドと中国の関係

ハリウッドの受賞式シーズンの幕開けとなっているアカデミー名誉賞の授賞式がロサンジェルスで行われ、俳優のジャッキー・チェンを含む4名の映画関係者が受賞しました。この名誉賞ですが、「アメリカの映画産業に特別な貢献をもたらした人物に贈られる賞」ということで、過去には日本の黒澤明監督や宮崎駿監督も受賞しています。

ハリウッドの誰しもが認める偉大な先駆者

伝説的大スター、ブルース・リー亡き後の香港映画界を支え、1998年の「ラッシュアワー」でハリウッドでも大成功をおさめたジャッキー・チェンもすでに60歳ということですがまだまだ若いですよね。

アクション・スターとコメディ・スターの言わば”ハイブリッド俳優”として新ジャンルを切り開いてきたジャッキー・チェンの功績は偉大ですし、一映画ファンとして、彼のアカデミー名誉賞受賞は当然だと思います。ただ、その一方で、このタイミングでの受賞は、多少の政治的な思惑もあったのでは?と若干疑いたくなりました。

ソフト・パワーの強化を目指す中国

アジア一の大富豪・王健林氏が率いる不動産業を中核としたコングロマリット・ワンダ・グループが、アメリカの映画製作会社や映画配給会社の買収に続き、今年9月にソニー・ピクチャーズと大規模な業務提携を発表したことで、中国政府が国をあげて取り組もうとしているソフト・パワー強化政策の具体的な中身がかなり明確なものになってきたと言えそうです。

ソフトパワー超大国でありライバルでもあるアメリカの映画産業を財政的にコントロールしようという、この強引ながらもしたたかな戦略に対するアメリカ側の警戒感を一気に高めたのが、前述したワンダグループの王健林氏がアメリカのニュースメディアのインタビューで発した「外国人がルールを決めている世界を変えていきたい」というコメントだった、とされています。

中国を警戒する人々は、この「ルール」という言葉を「価値観」に置き換えることで、ワンダグループ、そして中国政府がハリウッドを利用した自国のイメージアップを図ろうとしていると理解したようです。もっとも、最近のハリウッド映画にはそうした警戒心をあおっても仕方ない中国アゲの描写が見られます。

映画の中で行われる中国のイメージ戦略

例えば、宇宙空間に取り残された女性宇宙飛行士を助けるのが中国の宇宙船だったり、滅亡の危機に瀕した人類を中国が建造した巨大箱舟が救ったりと、中国がハリウッド映画の中で展開する、なりふり構わぬ強引なイメージアップ戦略には、人気トークショー番組がネタにするほどあからさまなものがあります。

ジャッキー・チェンは、そうした強引な手法に頼ることなく中国のイメージアップが図れる歩くソフトパワーと言えるでしょう。そのジャッキー・チェンに対するアカデミー名誉賞の授与が、中国のハリウッド進出が一段と加速し、同国の影響力拡大に対するハリウッドの警戒感が高まった2016年度に行われることになったのは、果たして単なる偶然だったのでしょうか?

大物ハリウッドスターが集結したパーティー会場で、ジャッキー・チェンが「中国人でよかった」と少々場違いなコメントをしたという話を聞いても、中国の影響力がアカデミー賞にまで及んでいる可能性を否定できない気がします。

ハリウッド進出で比較される日中

ところで、アメリカのメディアには、中国のハリウッド進出を1990年代にアメリカのコロンビア映画を買収した日本(ソニー)のイメージと重ね合わせるところもあるようです。

当時は伝統あるアメリカの映画会社が日本企業に買収されたことをセンセーショナル、かつエモーショナルに受け止めたアメリカのメディアが「日本による文化侵略」として取り上げたために論争が巻き起こりました。

当時のソニーは、あくまでもビジネス上のメリットを追及した結果であることを強調していたわけですが、今回は図らずもその姿勢の一貫性を子会社のソニーピクチャーズが示すことになったと言うわけです。

当時の日本と今の中国では明らかに目的が違うと思うのですが、アメリカの皆さんはその違いを理解してくれるのでしょうか?


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