本棚で見る自分の過去と未来「心の姿見」としての本棚の使い道

現在私と妻が住んでいる家は、横浜のマンションを売却して4年前に建てました。設計段階で私が唯一こだわったのは、リビングルームの壁面のひとつを本棚にすることでした。

本棚を身近に置きたいと考えた理由

いわゆる壁面本棚がある家に住みたいと思うようになったのがいつ頃だったのか、今ではよく覚えていません。結婚してから20年あまり住んでいた横浜のマンションでは、本棚を寝室や書斎兼納戸の通称「物置部屋」に置いていたのですが、一度か二度楽しんだだけの本や映像・音楽ソフトで次第に埋め尽くされていきました。

40代になった頃から、ついに本棚がいっぱいになり、年2回はコレクションの見直しを迫られるようになりました。妻の監督のもとで、所有する全ての本や映像・音楽ソフトを、「ブックオフ組」、「資源回収ボックス組」、「残留組」の3グループに仕分けする作業を定期的に繰り返すことになったのです。

めんどくさがりの私にとって、おそらく自発的に行うことはなかったであろうそうした作業は楽しいものではありませんでした。ただ同時に、過去から現在までに自分がどんなものに興味をもってきたのか、どんな風に生きてきたのかを確認できる機会を大切に思うようになりました。

人生も折り返し地点を過ぎ、これからどう生きるかを考えた時、「残留組」に貴重な時間と愛情を注いでいくこと決めた私は、そのことを私に気づかせてくれた本棚を生活スペースの中心に置きたいと思うようになりました。本棚を通して常に自分を客観的に確認したいと思い始めたのです。

人に本棚を見られること

そのような経緯を経て、私たちのリビングルームはこのようになりました。

bookshelf

今の私は、本棚が暮らしの中心にある生活にとても満足しているのですが、ちょっと困るのはお客さんが訪ねてきた時です。ミニマムな部屋しかない私たちの小さいな家では、お客さんをお通しする場所はリビングルームしかありません。

家族や友人ならいざ知らず、ほとんど他人と言って良い人達に、本棚をしげしげと観察されるのは実に気まずいものがあります。経験して初めて分かったことでしたが、まるで頭の中や心の中を覗かれているような気分になるのです。

そういうわけで、「Share Your Shelf 」というサイトのことを知ったときは驚きました。このサイトでは、自分の本棚を他人に見せたいという人が集まっているのです。

本棚イコールあなた自身

参加方法はいたって簡単で、自分の本棚の写真を撮ってコメントを添えてアップするだけです。投稿者は本のタイトルが写っているクローズアップ写真と本棚を含めた部屋全体の写真の二種類を提出することが求められています。本のタイトルで投稿者の興味や関心・知識が分かるし、部屋全体の写真で、整理整頓方法を通じて投稿者の性格が分るから、ということのようです。

サイト名の「Share Your Shelf」、すなわち「あなたの本棚をシェアしましょう」というメッセージの意味は「Share Yourself」、すなわち「あなた自身をシェアしましょう」だったというわけです。

収納方法による性格分析?

「Share Your Shelf」を訪れるユーザーの中には、インテリアデザインや収納技術に関するアイデアを他人と共有したいという人たちもいます。例えば、本の収納はタイトルや著者名のアルファベット順が良いのか、あるいはジャンル別が良いのかというテーマも議論の対象になります。自宅の限られたスペースで少量の本をコレクションするための方法論は、図書館や書店とは必ずしも同じではないということでしょう。

ただ、投稿時のルールからも想像できるように、参加者の関心は、インテリアデザインや収納アイデアよりも、投稿者そのものに向けられているようです。言うなればそれは、見ず知らずの他人のお宅を次々に訪問し、その主がどんな人物なのかを本棚だけをヒントに推理するというクイズゲームのようなも楽しみを見出しているのかもしれません。

中には他人の本棚に自分の本棚との共通点を見出し、友達になる人もいるみたいです。本棚を見せ合うこのサイトは、考えようによっては究極のSNSかもしれません。

本棚が持つ視覚的情報量

確かに、本のコレクションを見ればその人そのものがわかるという発想は、あらゆる情報がデジタル化されようとしている現代社会にあって、貴重な提言かもしれません。私たちの脳に情報を送るインプットデバイスとして、最大の情報量を提供できるのは視覚だからです。

例えばある人物のプロフィールを確認するために1分間だけ時間が与えられたとします。履歴書やレジメに目を通して得られる一面的な情報、例えば職歴やポストなどの情報よりも、本棚を見て得られる多面的な情報、例えば本棚に並んでいるビジネス書や自己啓発本、趣味の本のタイトルを眺めることで得られる情報のほうが、1分間という限られた時間の中でその人物を立体的に理解しようとするためにはより効率的かもしれません。

私が他人に本棚を見られたときに感じたあの気まずさの理由も、パーソナルな情報発信の器としての本棚の価値を無意識のうちに知っていたからかもしれません。

まとめ

書籍のデジタル化がさらに進めば、本棚もやがてなくなってしまうのかもしれません。電子書籍のアプリには本棚をイメージさせるインターフェースもありますし、それを他人と共有する機能もあるのかもしれませんが、知識や人生の過程を物理的に置き換える本棚の価値を完全に置き換えることは難しいように思えます。

本棚が果たす役割について再評価される日が来ることを祈りつつ、これから先も本棚がある暮らしを楽しめていけたらと思っています。

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