エキス・マキナ(2015年/イギリス/1時間48分)
検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社“ブルーブック”でプログラマーとして働くケイレブは、巨万の富を築きながらも普段は滅多に姿を現さない社長のネイサンが所有する山間の別荘に1週間滞在するチャンスを得る。
しかし、人里離れたその地に到着したケイレブを待っていたのは、美しい女性型ロボット“エヴァ”に搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能のテストに協アレックス・ガーランド力するという、興味深くも不可思議な実験だった・・・。(引用元:公式サイト)
(監督)アレックス・ガーランド(キャスト) アリシア・ヴィキャンデル、ドーナル・グリーソン、オスカー・アイザック、ソノヤ・ミズノ
Contents
主な見どころ
若手実力俳優の共演によるスタイリッシュなSFスリラーです。観客がSF映画の世界観に没入するために必要なリアリズムを、俳優陣の高い演技力、ハイセンスなプロダクション・デザイン、高度な視覚効果で提供しています。
若手実力派俳優のショーケース
密室劇に近い舞台設定と少人数の登場人物設定のもとで「機械と人を隔てるものは何か?」という哲学的なテーマを扱うためには、演技力が高い俳優たちの起用が不可欠だったはずです。3人の主要キャストは、その期待にほぼ完ぺきに応えていると思います。
3人の中で誰が最も印象に残ったか聞かれれば、私はアリシア・ヴィキャンデルを選びます。彼女は、人工知能と人間の心を隔てるものを視覚的に表現するという難しい課題を見事にこなしていました。もし、彼女の想像力あふれる演技が無かったら、出演シーンの大半で使われていた、身体の一部を機械じかけに変えるための特殊効果は、十分な効果をもたらさなかったはずです。
ハイセンスなプロダクション・デザイン
SF映画に登場するデザイン・コンセプトは、『ブレードランナー』のシド・ミードが描いたカオス的なコンセプトか、『2001年宇宙の旅』でトニー・マスターズが描いたクリーンなコンセプトのどちらかに分類できると思うのですが、『エクス・マキナ』には明らかに後者の影響が認められます。
私は、結果的この選択は大正解だったと思います。壮大な自然の中に未来的でスタイリッシュな建造物のセットを持ち込むというアイデアは、密室型舞台の演出効果を一層高めていますし、限られた予算内で大富豪の別荘(研究施設)を再現するのにも役立っていました。
また、アリシア・ヴィキャンデルが身に着けているサイボーグ・パーツやその素材のデザインも、クリーンなセット・デザインと見事にマッチしていて、作品全体のリアリティを高めることに成功しています。なお、プロダクションデザイナーは、フォーミュラーワンの組み立て工場などでメカや素材のリサーチをしたそうですが、その効果は見事に発揮されていました。
高度な視覚効果
この映画の価値を高めているものは、何といってもアリシア・ヴィキャンデルの体の一部を機械化するために使われている特殊効果でしょう。
屋内シーンはもちろん、屋外シーンでもハイレベルな特殊効果が施されていましたし、併用されていた特殊メイクの技術も含めて、観客が安心してストーリーに没入することを助けていました。
『スターウォーズ・フォースの覚醒』を退けて2015年度のアカデミー賞特殊効果賞を受賞したのも頷けます。
ストーリー展開には物足りなさも
その一方で、ストーリーには若干物足りなさを感じました。プロットは、テーマに共通点が多いスティーブン・スピルバーグの『A.I.』などに比べると独創性に欠けていたように思います。アカデミー賞脚本賞ノミネート作品としては、展開があまりにも簡単に予想でき、意外性に欠けていました。(ちなみに2015年度のアカデミー脚本賞を受賞したのは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でした。)
また、中盤から終盤にかけてのペースダウンも気になりました。途中で『ブレード・ランナー』イコール・レプリカント説を思い起こさせる興味深いシーンがありましたが、ストーリーを前に進めることもなく、結果的には中途半端で不必要なシーンだったと思います。
今回の酔い加減査定
(最高酔える度+5~最低酔えない度-5)
3人の若手俳優の演技(とりわけアリシア・ヴィキャンデル)とハイセンスかつリアルなプロダクション・デザインは一見の価値があります。さらに付け加えれば、もう一人の出演者、日系イギリス人女優のソノヤ・ミズノもとても良かったと思います。(彼女にはアジア系の役を競い合うかもしれない菊地凛子を凌ぐ演技力があるのではないでしょうか。)
小説家・脚本家のアレックス・ガーランドは、監督初挑戦作だったということですが、思い通りにならなかった点が多かったのかもしれません。「究極まで発達した人工知能を生み出し、まさに神に迫ろうとした人類が、自らの創造物を制御しきれず破滅する」というクラッシックなストーリー・ラインに彼独自の視点が加わることを期待したのですが、複数の視点を持ち込みすぎたためにテーマが拡散してしまったような印象を持ちました。彼は、第二のマイケル・クライトンになる可能性もあると思っているので、次の作品に期待したいと思います。
豆知識
タイトルの『エキス・マキナ』ですが、ラテン語を直訳すると「機械仕掛けから現れし」という意味になるのだそうです。