映画『沈黙 -サイレンス』海外の批評家が絶賛する日本人出演者とは?

巨匠マーティン・スコセッシ監督が約30年の歳月をかけて世に送り出す、遠藤周作の『沈黙』を原作とした映画『沈黙-サイレンス』(日本公開は2017年1月21日)。その全米公開を前に、海外メディアのレビューがほぼ出揃ったようです。

(日本版公式予告動画はこちらから)

キリスト教の布教と信仰が禁じられた江戸時代初期の日本を舞台に、宣教師と隠れキリシタンの苦難の物語を通して、『クンドゥン』や『最後の誘惑』を含む数多くのスコセッシ作品に共通するテーマ、信仰と贖罪について描く作品だけに、スコセッシ・ファン、あるいは映画ファンとしてだけでなく、日本人としても映画の評価が気になるところです。

海外のレビューはおおむね良好・・・

巨匠マーティン・スコセッシのライフワークとも言うべき作品に対して海外の批評家達はどのような評価を下したのでしょうか。結論から言うと、評価は悪くないと思います。

ただ残念ながら、批評家がもろ手を挙げて絶賛するというレベルには遠く及ばないようです。5段階で言えば、おそらく3~4程度でアカデミー賞作品賞の受賞は難しいでしょう。(アメリカの人気映画レビューサイトRottenTomatoesの評価はこちら

早速、代表的なレビューを抜粋します。まず好意的なレビューですが「人間と信仰について正面からとらえようとした『挑戦的な映画』である」といった評価が多かったように思います。ちなみに『挑戦的な映画』という表現は、ハリウッドでは必ずしも誉め言葉とは限りません。なぜなら、ハリウッドの大手映画会社が敬遠しがちな「採算度外視の芸術映画」もこのカテゴリーに含まれるからです。

『沈黙-サイレンス』は、ゆっくりと明かされ、深く思考する、自分自身に問いかける映画だ。それは権威に対する問いかけでもある。一人の人間として、どこで過ちを犯したのか、あなた自身に対して、他者に対して、あるいは神に対して.どうしたらそれを償うことができるのか問いかける映画 By  Stephen Whitty New York Daily New

逆に辛めの評価を下したレビューには、スローなテンポと長い上映時間を問題にしたものが目立ちました。

沈黙-サイレンス』は成熟の域に達した偉大な巨匠の一人が監督したにもかかわらず、偉大な映画とは言えない。(『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の過剰な乱痴気騒ぎの後で直ちに取り組んだ作品だった。)確かにゴージャスだが、まるで罰ゲームのように上映時間が長く、何度も退屈な場面があり、一番重要なシーンで話がつながっていない。By Peter Debruge Variety

『沈黙 -サイレンス』の制作には30年近くかかった。その映画は、残念ながら、上映時間が30年だったような気分にさせる(テンポの悪い)映画だった。By Kyle Smith  New York Post

映画化に30年もかかってしまった本当の理由

辛口の評価には『この映画は人に勧められない』と明言しているものもありました。その理由は「17世紀の日本の村が舞台で、拷問シーンが延々と続くから」だそうです。まさにそれこそが、『沈黙 -サイレンス』の制作に30年近くの歳月を要した理由と言って良いでしょう。

映画史に名を残す巨匠のライフワークと言えども、ある程度収益を見込める作品でなければ映画会社も投資会社も出資しないということなのです。『スパイダーマン』主演俳優と二人の『スターウォーズ』出演俳優が出演したのも、出資条件のひとつだったと見られているようですが、リーアム・ニーソンは出演料が決して高くなかったことを認めています。(参照:The New York Time Magazine

偉大なスコセッシ監督作品に出演できるなら手弁当でも構わないという気持ちは、若手の演技派俳優として評価が高まるアンドリュー・ガーフィールドとアダム・ドライバーの二人も同じだったのかもしれません。

辛口の海外批評家も認めた日本人俳優とは?

さて、そんな厳しい海外の批評家たちの賞賛をほぼ独占している日本人俳優がいます。浅野忠信?あるいは窪塚洋介?

確かに彼ら二人を評価する批評家もいましたが、日本人俳優はおろかリーアム・ニーソンを含む全俳優陣の中で圧倒的な支持を集めていたのはイッセー尾形です。

今回私がチェックしたレビューはアメリカとイギリスの新聞、雑誌のもので合わせて50ほどありましたが、そのうちの7~8割はイッセー尾形について絶賛、もしくは好意的に取り上げています。とても全部は紹介しきれないので、そのうちの一部を抜粋してみます。

る賢い知性で霊感めいた判断に政治的なもっともらしさを加える悪徳尋問官・井上を演じた、素晴らしいイッセー尾形はオスカー候補にふさわしい。By Peter Travers rollingstone.com

蝶々夫人のように団扇を使いながら、そして『チャイナタウン』のジョン・ヒューストン以来、最も欺瞞的な笑顔を誇らしげに振りまきながら、イッセー尾形は、この横柄で上機嫌なつかみどころのない野獣を演じる。 「なぜ、お前は私の暮らしを面倒にするのだ?」拷問担当なのに、あたかも拷問が一番やっかいな仕事だと言わんばかりに、まるで『カジノ』のジョー・ペシが言っていたような文句を口にしつつ、男の頭を万力で締め付けるのだ。 BY TOM SHONE  NEWS WEEK

母国ではコメディアンのイッセー尾形は、凶悪な処罰をしているにもかかわらず魅惑的で風変わりな力強い尋問官を演じている。By Brian Truitt , USA TODAY

The Film Stage(https://thefilmstage.com)

他にも、「『スパイダーマン』以降スランプに陥っていたガーフィールドから最高の演技を引き出した」とか、「この映画で一番の収穫」とか、あるいは1984年の『キリング・フィールド』で助演男優賞を受賞したハイン・S・ニョール以来32年ぶりとなるアジア人男優のアカデミー賞俳優部門受賞の可能性に触れるライターもいて、とにかくイッセー尾形、大絶賛なのです。(リンク先のご本人公式WEBサイトに『沈黙-サイレンス』出演についてコメントされています。ぜひご覧ください。)

まとめ

マーティン・スコセッシ監督は、徹底的に細部にこだわることで知られています。撮影監督のロドリゴ・プリエトのインタビュー動画を見ましたが、彼が明かした数々のエピソードはそれを裏付けています。

例えば、夜の屋外シーンで「霧」の風景を撮影する際には、スコセッシ監督の指示で溝口健二監督の『雨月物語』を見たそうです。また、日本の雰囲気を出すためにロケ地の台湾に生息していない植物を日本から取り寄せたこともあったようです。プリエトによると、スコセッシは人間の残酷な仕打ちと美しい自然のコントラストを描くことに強くこだわっていたようです。

撮影のイメージを伝える際に近代絵画の作家や作品名を挙げるなど、師と仰ぐ黒澤明監督から強く影響を受けているスコセッシ監督。黒澤監督の故郷日本の風景を描くのにも並々ならぬこだわりがあったのでしょう。

『ラ・ラ・ランド』が圧倒的支持を集めそうな2016年度のアカデミー賞で、『沈黙 -サイレンス』が作品賞は受賞するのは難しいかもしれません。しかし、何はともあれスコセッシ監督のライフワークとも言うべき『沈黙 -サイレンス』はやはり劇場で見るべき作品です。そして今やその理由に、イッセー尾形の演技で加わったことは喜ばしい限りです。年末年始は、遠藤周作の原作をじっくり読んで1月21日の劇場公開に備えたいと思います。

『沈黙-サイレンス-』米国カトリック教会バロン司教によるレビューを読んだ感想
『沈黙-サイレンス-』を見た後、信仰心がない私がこの映画に100%の共感を覚えることはないだろうと直感的に感じました。高名な米国カトリック教...

『沈黙-サイレンス-』全米公開。初めて迎えた週末の興行収入と観客の反応
巨匠マーチン・スコセッシ監督のライフ・ワークとも言うべき映画『沈黙-サイレンス-』が全米で公開されました。果たして観客の反応はどのようなもの...


海外映画 ブログランキングへ

スポンサーリンク
336X280
336X280

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

関連記事広告