2016年12月28日に60歳の若さで亡くなったキャリー・フィッシャー氏を追悼し、彼女のあまり知られていないエピソードをご紹介します。
Contents
”弱者”を支える”弱者”として
躁うつ病に苦しんでいたキャリー・フィッシャーは『スター・ウォーズ エピソード4新たなる希望(1977)』で一躍有名になった後、1980年に公開された『ブルース・ブラザース』の撮影現場で共演者のコメディアン、ジョン・ベルーシ(1982年に薬物の過剰摂取で死亡)、ダン・アイクロイドとの交流をきっかけに「自分を落ち着かせる手段」として薬物(コカインと処方箋薬)に手を染めました。
その後、自叙伝を出版したキャリー・フィッシャーは、自らの闘病生活を独特のユーモアと軽妙なタッチで描きました。「自分にプレッシャーをかけすぎない」「深刻になりすぎない」という彼女のメッセージが同じ病に苦しむ人々の救いになったのです。
酒や薬で身を滅ぼしたセレブはハリウッドでは決してめずらしくありませんが、彼女のようにどん底から復活を果たし、息の長い活躍を続けた人はそう多くありません。それを可能にしたのは、彼女の聡明さ、ユーモアのセンス、ライティング・スキル、そして誰からも愛されたその人柄でした。
ちなみにダン・アイクロイドとの関係が結婚直前まで発展したきっかけは、『ブルース・ブラザース』の撮影現場で芽キャベツをのどに詰まらせて窒息しかかったキャリー・フィッシャーを、ハイムリッヒ法(窒息した人を背後から抱きかかえるようにして異物を吐き出させる方法)で救ったことがきっかけだったようです。
脚本の”お医者さん”として
スクリプト・ドクターとは脚本の問題点を指摘し書き直すプロのライターのことです。ライターとしても一流だったキャリー・フィッシャーは、売れっ子のスクリプト・ドクターでもありました。
彼女が手がけた作品の中には『フック(1991)』『リーサル・ウェポン3(1992)』『ラスト・アクション・ヒーロー(1993)』『スター・ウォーズ・エピソード1ファントム・メナス(1999)』『コヨーテ・アグリー(2000)』『スクリーム3(2000)』『スター・ウォーズ・エピソード2 クローンの攻撃(2002』が含まれています。
自分をスターダムに押し上げ、良い意味でも悪い意味でもその後の人生を大きく変えた『スター・ウォーズ』のPrequel(前編)エピソード1、エピソード2にスクリプト・ドクターとして関わったキャリー・フィッシャーの心境はいかなるものだったのでしょうか。彼女が関わったそれら2作品がファンや批評家からかなり厳しい評価を受けただけに気になるところです。
愛犬はセラピー犬
キャリー・フィッシャーの愛犬・フレンチ・ブルドッグのゲイリーは、躁うつ病の治療のために飼い始めたセラピー犬でした。セラピー犬とは、心身の病を抱えた患者と交流することで患者に安らぎを与えて病を癒すために高度な訓練を受けた犬たちです。
キャリー・フィッシャーのゲイリーに対する溺愛ぶりは有名で、パーティー会場や撮影現場はもちろん、ゲイリーを連れてステージに上がることも珍しくありませんでした。ヘラルド・トリビューンのインタビューでキャリー・フィッシャーは愛犬についてこう語っています。
ゲイリーは私の先生なの。母に言わせると暴れん坊らしいけど。ゲイリーは私の心そのもの。ゲイリーは私にすごく献身的で、私を落ち着かせてくれるの。離れ離れの時なんて、私のことをすごく心配してくれるのよ。
なお、ゲイリーのツイッター・アカウント(運営者が誰なのかは不明)によると、ゲイリーは娘の女優ビリー・ラードに引き取られたようです。
有名女優の母親との壮絶な親子関係
母親の有名女優デビー・レイノルズも登場するキャリー・フィッシャーの自叙伝『崖っぷちからのはがき』は、スキャンダラスな話題を集めベストセラーとなりその後映画化されました。
大物女優のメリル・ストリープと、これもまた大物のベテラン女優シャーリー・マクレーンが、ドラック中毒で女優の娘とアルコール中毒で大物女優の母親を演じた『ハリウッドにくちづけ』は、小説同様大きな注目を集め公開1週目に全米興行収益第1位を獲得するなど、まずまずの成功を収めました。
この映画の後で、葛藤を乗り越えて絆を深めてきたデビー・レイノルズとキャリー・フィッシャーの親子関係を好意的に受け止め、理想の親子ととらえる人たちが増えたように思います。
キャリー・フィッシャーが亡くなった翌日にデビー・レイノルズが亡くなったことは、ドラマチックな親子の生涯を象徴する出来事であり、悲しみと同時にある種の救いを感じます。(『ハリウッドにくちづけ』の続編が製作される可能性はあるのでしょうか…。)
伝説的大女優エリザベス・テイラーとの関係
キャリー・フィッシャーの父親で50年代を代表する大物歌手のエディー・フィッシャーと母親のデビー・レイノルズは、キャリー・フィッシャーが2歳の時に離婚しました。離婚の原因は、エディー・フィッシャーの再婚相手となる伝説的大女優エリザベス・テイラーの略奪愛とされ当時は大スキャンダルとなりました。
キャリー・フィッシャーは、母親のデビー・レイノルズに引き取られたため、キャリー・フィッシャーとエリザベス・テイラーが親子関係になることはありませんでした。(もし、キャリー・フィッシャーが父親に引き取られていたら、レイア姫とクレオパトラが親子関係になっていたところでした。)いずれにしてもキャリー・フィッシャーは両親の離婚がきっかけで読書にのめり込むようになり、後にライターとして才能を開花させる基礎を築いたのです。
なお、デビー・レイノルズは夫を奪ったエリザベス・テイラーを許す発言をしており、二人は後に映画で共演しています。また、EOnlineによると、エリザベス・テイラーが亡くなった際に、キャリー・フィッシャーは自分の両親を離婚に導いたエリザベス・テイラーについて次のようにコメントしています。
誰かが母から父を奪うのであれば、それがエリザベス・テイラーでむしろよかった。彼女は独りよがりに誰かを追い回すのではなく、人生を最大限に高めようとしたすごい女性だった。彼女は惜しまれることはあっても、忘れ去られることは決してない。
自由奔放に生きてきた者同士、相通じるところがあったのでしょうか。
ジョージ・ルーカスに対する強い敬愛の念
キャリー・フィッシャーにとって、自らの人生を決定づけたスター・ウォーズの生みの親であり偉大なクリエイターであるジョージ・ルーカスに対する敬愛の念は、他の出演者とは比較にならないほど強かったのではないでしょうか。そのことを感じさせる映像が二つあります。
一つ目が、1977年の『スター・ウォーズ・エピソード4新たなる希望』公開後に宣伝のためにフランスのテレビに出演した際のキャリー・フィッシャーとハリソン・フォードの貴重な映像です。
二十歳になったばかりのキャリー・フィッシャーが、ジョージ・ルーカスについてフランス語で次のようにコメントしています。
彼はスター・ウォーズも作りました。キャラクターも具体的で、とても良くできています。プリンセスは犠牲者なんかじゃなくて、とても強い人物なんです。
読書家であり、後にライターとして才能を開花させたキャリー・フィッシャーが、ジョージ・ルーカスの緻密なキャラクター描写に感銘を受けていた様子がうかがえます。
なお、『スター・ウォーズ・エピソード4新たなる希望』のキャスト同士が打ち解けたのは撮影中ではなく、映画がヒットした後だったとされています。ハリソン・フォードのどこかよそよそしい態度の理由も、そのあたりにあるのかもしれません。
次の映像は、2005年にジョージ・ルーカスが全米映画協会(AFI)の特別功労賞を受賞した際のキャリー・フィッシャーのお祝いのスピーチをおさめたものです。
歯に衣着せない発言で度々物議をかもしてきたキャリー・フィッシャーですが、まだ闘病中であった彼女のかなり毒気を含む祝福の言葉に聴衆の大半はひやひやしていたのではないでしょうか。冒頭の自虐的なギャグにライターとしての彼女のセンスを感じます。彼女のスピーチの中から、印象深いフレーズをいくつか抜粋してご紹介しましょう、
アルコール中毒患者のハン・ソロです。できるだけましな言い方をすれば、ジョージ・ルーカスは私の人生を台無しにしました。
ジョージがあのカルト作品を撮ってから数十年たつ今でも、あの作品があんなにヒットするなんてわかってたの?って事あるごとに聞かれます。もちろん、私たちにはわかってました。ただし、ジョージを除いては。
成功した時にどんな顔をするのか見たかったから、ジョージにはそれを内緒にしてたのよ。
マーク・ハミルが言っていた”独特のウイット”とはこういうことなのですね。特にキャラクターの商品化権などについて、自分がシャンプーになったりお菓子の容器になったりしたことを引き合いに出して、ジョージ・ルーカスを執拗にからかっています。
毎朝、鏡を見るたびに思い出すんです。肖像権としてジョージに2ドル払わなきゃって。
あんな風に生き生きとした並外れたキャラクターが住んでる世界に連れて行ってくれるのはジョージだけ。だから、マーク(ハミル)やハリソン(フォード)、それに私は残りの人生でどこに行っても、ファンレターを送ってくれたりにぎやかに追いかけまわしてくれる小さなストーカー集団に楽しませてもらえるようになったってわけ。
苦笑しながら聞いているジョージ・ルーカスについて、最後にキャリー・フィッシャーはこんな風に讃えます。
彼は類まれなる才能を持った、そうね…、もう認めましょう。芸術家なんです。しかも、ひとつの世代に一人しか現れない、その世代自体を定義してしまうような存在なんです。
まとめ~ジョージ・ルーカスからのお別れの言葉
下着(ブラジャー)なしでレイア姫の衣装を着るように言われたキャリー・フィッシャーは、ジョージ・ルーカスに理由を尋ねました。その質問にジョージ・ルーカスは「宇宙空間には重力がないので」と答えたそうです。(この一件は、先ほどご紹介したAFIのスピーチでも触れられています。)
天才ジョージ・ルーカスにとって、数千人の中からキャスティングされたキャリー・フィッシャーは単なる出演者ではなく、時に手厳しさも見せる良き理解者でした。最後にジョージ・ルーカスがキャリー・フィッシャーに贈った追悼の言葉をご紹介します。(引用元:People)
キャリーと私は大人になってからの人生の大半をとおして友達でした。彼女は本当に頭が良くて、才能ある俳優であり、ライターであり、みんなから愛されるとても多彩な面を持ったコメディアンヌでした。
スター・ウォーズの彼女は、偉大で力強いみんなのプリンセスでした。元気いっぱいで、賢くて、希望にあふれた彼女の役は、人々が考えているよりもずっと難しいものでした。ビリー・デビーをはじめキャリーのご家族の皆さん、ご友人、そしてファンの皆様に心からお悔やみ申し上げます。彼女は皆から惜しまれるでしょう。 ジョージ・ルーカス
あらためてご冥福をお祈りします。