(主な内容)
・語学留学先として人気のフィリピン。理由の一つが”世界一高い”ビジネス英語レベル。
・根拠となっている企業調査資料には疑問点も指摘されている。
・フィリピンの英語力の実態は?
Contents
語学留学先としてクローズアップされるフィリピン
語学留学先として、フィリピンの人気が高まっているようです。費用の安さに加え、日系企業が経営する学校に対する安心感、ビーチリゾートで余暇を過ごせることなどが人気の主な理由なのだそうです。
その一方、語学留学先としてフィリピンを選ぶことに不安を感じている人たちは、その理由として、治安、食事などとともに、フィリピンの英語をあげているようです。例えば、
「英語の語学留学先と言えば、これまでは北米やオセアニアだったが、それらの国で学べる英語と比較してフィリピンの英語に問題はないのだろうか?」
といったような内容です。そこで、そうした不安を払拭すべく広く引用されている資料があります。アメリカのシリコンバレーに本社を置くオンライン英語教材を開発するIT企業グローバル・イングリッシュ社が2013年に行った調査結果です。
非ネイティブのビジネス英語レベルが一番高い国は?
その調査によると、対象となった世界73か国のうち、母語(生まれて初めて話す言葉)が英語でない人たちのビジネス英語レベルが世界で最も高い国ベスト10は、このようになるそうです。
10位 シンガポール (6.28)
9位 インド(6.32)
8位 スェーデン(6.33)
7位 フィンランド(6.39)
6位 ベルギー(6.45)
5位 オーストラリア(6.78)
4位 イギリス(6.81)
3位 オランダ(7.03)
2位 ノルウェー(7.06)
1位 フィリピン(7.95)
なお、国名の次に表示した数値は、各国の母語が英語ではない人たちのビジネス英語レベルを示すもので、1から3が初級レベルクラス、4から6が基礎レベルクラス、7から8が中級レベルクラス、そして9から10が上級レベルクラスということです。
気になる日本ですが、73か国中の第50位、基礎レベルの最下位クラスでスコアは4.29ということでした。
調査結果の信ぴょう性には疑問の声も
この調査結果に疑問を投げかけたのは、イギリスの経済紙エコノミストです。同紙のオンライン記事を要約すると以下のようになります。
- 記者の経験上の感覚と異なるランキングに疑問を抱き(スイス18位やドイツ20位など)、グローバル・イングリッシュ社に調査方法を取材。調査は同社のクライアント企業に対して行われたオンラインテストの結果に基づくものだったことが判明。
- 従業員の英語力改善の必要性を認めている企業が対象になっているので、そうでない企業、すなわち従業員の英語力に満足している企業(英語力の高い従業員を抱える企業)は対象外。その結果をもって世界ランキングと称するのは正確性に欠ける。
- 英語教育関連企業ラーニング・イングリッシュ社が行った別の調査EF EPIランキングがあるが、結果に共通しているのは北欧の経済的に優位な位置にある国々が上位にランクされていることである。(つまり、従業員に語学学習機会を提供できるだけのけ余力がある国々が上位にランクされる。)ちなみにEF EPIランキングでは、「調査結果は限定的なものである」旨の注釈が加えられている。
(引用元:The Economist; “Business English Who’s number 1? Really?”)
こうした”世界ビジネス英語ランキング”の根拠足り得るような大規模な試験をどのように実施したのか、私も興味を抱いたのですが、ちょっと肩透かしをくらった気がします。
ちなみに、ラーニング・イングリッシュ社のEF EPIランキングは最新版が発表されましたが、フィリピンは72か国中13位(1位はオランダ)となっているようです。
(引用元:Larning English “How Well is English Spoken Worldwide? EF EPI Ranking 2016”)
そもそも「ビジネス英語力」とは何か?
なお、このエコノミスト紙の記事には150近くのコメントが寄せられていました。ざっと目を通したのですが、コメントの半分は、「それでもフィリピン人の英語は優れているよ」という意見で、半分は記者に同調し「やはり、こうした企業調査を全面的に信用すべきでない」というものだったと思います。
ちなみにこの記事は、エコノミスト紙の購読者か有料のオンライン版購読者を対象にしたものなので、コメントしている人たちも、普通紙に比べると国際ビジネスに精通している人たちが含まれる割合は多いと思います。(私は「お試し登録」で読みました。)
なお、コメントの中には「イタリア人だがこんな上位にランクされているのは明らかにおかしい」とか「自分の母語は英語だが、そもそもビジネス英語と普通の英語の違いは何なのだ?」など面白いものがたくさんありました。
調査資料を読むと、ここで言うビジネス英語力とは、英語や英文法に対する知識、メールや電話などコミュニケーション手段への応用力、プレゼン・会議・商談への適用力、複雑な問題分析・問題解決のために会議素材を準備することも含めた貢献ができるか、といった4つの項目で測定されたものだそうです。
果たしてこれだけの項目をオンライン・テストでカバーできるのか、私にはちょっと想像できません。
フィリピン人の英語力の実態とは
最後に、フィリピンの英語について触れてみたいと思います。フィリピンの公用語はフィリピン語(タガログ語)と英語で、学校教育を受けている大半の国民は英語でのコミュニケーションが可能です。(大学の授業は英語で行われます。)
私自身、フィリピンのビジネスマン、大学関係者、学生の皆さんと度々仕事をした経験がありますが、彼らの英語はネイティブスピーカーとそん色ないものでした。
フィリピンには欧米企業も多数進出していますが、英語スピーカー向けのコールセンターを設置している会社が多いのが特徴です。日本から外資系IT企業のサポートデスクに電話するとフィリピンにつながることもよくあります。
まとめ
というわけで、私個人としても、フィリピンの英語が信頼できるのは間違いないと思いますし、語学留学先の候補として人気があるのも十分うなづけます。ただ、フィリピンに駐在経験のある人たちから共通して聞かされたのは、治安の問題です。フィリピンに語学留学される皆さんには、くれぐれもご注意頂けたらと思います。