2016年のアメリカ大統領選挙は、あらゆる意味でこれまでの常識をくつがえすものでした。私はトランプに対してどちらかと言えば中立な見方をしているつもりなのですが、今回の大統領選挙報道について言えば、アメリカの主要ニュースメディアの報道姿勢は中立性に欠け、反トランプと言って良いものだったと思います。今回は、おそらくこの先しばらく続きそうなトランプ次期大統領対アメリカの主要ニュースメディアの対立について触れてみたいと思います。
Mark Taylor Donald Trump as he exits the stage after speaking at CPAC 2011.
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投票日当日まで泡沫候補扱いされ続けた大統領候補
良質なジャーナリズムの恩恵をうけるアメリカ国民をうらやましく感じてきた私ですが、今回の大統領選挙に関しては、アメリカのニュースメディアの反トランプキャンペーンとも言うべき報道姿勢にかなり大きな違和感を覚えました。
アメリカのテレビニュース報道は、日本テレビやテレビ朝日ような地上波キー局に相当するABC、CBS、NBCのほかに、ニュース専門のケーブルニューステレビ局CNN、MSNBC、FOXNewsによって提供されています。政治的なスタンスは、FOXNewsを除いて「リベラル」と言って良いと思います。(「リベラル」といっても日本で使われている「リベラル」という単語とは異なる点も多いのですが、これについてはまた別の機会に触れてみたいと思います。)
今回の大統領選挙では、保守的なFOXNewsを含めトランプを大統領候補としてまともに扱ってきませんでした。トランプのこれまでの経歴や選挙戦最中の非常識な発言の数々を思えば無理もないことだと思います。(「ニューヨークの5番街で銃を発砲しても支持者が減らない」と発言した時は、私も驚きました。)
選挙結果に影響をもたらしたメディアのエリート意識
ただ私が問題だと思ったのは、トランプが共和党候補者として選出された後から大統領選挙当日まで、そうしたメディアの姿勢に変化が見られなかったことです。それどころか、報道機関の倫理的な使命感にかけてトランプのような低俗であつかましい拝金主義者を阻止してみせるとでも言わんばかりの、メディアの行き過ぎたエリート意識に少なからず嫌悪感を覚えました。
保守的なFOXNewsでも最も強硬な論調で知られているニュースアンカーのショーン・ハニティーは、主要ニュースメディアのキャスターとしてはただ一人トランプ寄りの報道を貫いた人物です。公正さのかけらもない彼の報道姿勢はともかく、大統領戦直後に彼の番組内で流されたビデオ(アメリカのニュース報道では珍しいエモーショナルなBGM入りです)を見ると、多少強調されているとは言え、アメリカの主要ニュースメディアがどのようにトランプを扱ってきたかよく分かります。
なお、ビデオの前に取り上げられたのは、ABCの大統領選挙特番で著名なジャーナリストのマーサ・ラッダーツがトランプ勝利に思わず悔し涙する様子です。「公正さのかけらもないメディアの典型」と言うわけですが、確かに日本でもこんなシーンは滅多に見かけません。
番組出演者がトランプ支持者を露骨にさげすむシーンは見るに堪えないものがありました。予備選挙期間を含めると半年以上に渡りあのような場面が毎日のように報道されてきたことを考えると、ハニティが主張している「メディアが死んだ」という言葉にも、ある程度の説得力が感じられます。
反省を口にし始めたメディア
こうしたメディアの報道姿勢に対する疑問の声は、選挙中からすでに聞かれ始めていました。ある大学の世論調査では、クリントン支持者を含む有権者の55パーセントが、メディアの偏向報道を訴えるトランプは正しいと回答したとの記事がニューヨークポスト紙などに掲載されていました。メディアの度を越えた偏向ぶりは、大半のアメリカ国民の目から見て明らかだったことが伺えます。(参照:New York Post ”Americans think the media is biased against Trump: poll”)
トランプが次期大統領に決まってからは、ニューヨークタイムスなどの主要メディアにも「トランプ大統領誕生を見抜けなかった」ことに対して自戒の念を表明するような報道が徐々に見られるようになりました。反トランプの急先鋒で、11月21日にトランプ次期大統領が主要メディアの関係者をトランプタワーに招いて行った懇談会で、トランプから「嘘つき集団」と名指しされたというCNNでも、いくつかそのような報道がありました。(参照:New York Post: New York Times: We blew it on Trump)
CNNも認めた?小学生でも分るお粗末な大統領選報道
そのひとつに、小学校を訪ねたリポーターが子供たちに「今回の大統領選挙報道が良かったと思う人は手をあげて」とたずねるシーンがあったのですが、カメラに収められていたのは、誰一人として手をあげようとしない子供たちと苦笑するリポーターでした。
今回の大統領報道がいかにお粗末であったか、子供に代弁させようとするところにCNNの悪あがきが感じられます。なお、CNNを含め、選挙期間中の報道について各局が自らの報道内容をより具体的に検証するような番組は今のところ見当たりません。
2016年大統領選挙報道の総括とは?
これまでの各局の報道内容をまとめると、今回の大統領選挙報道に対する総括として以下のようなポイントが議論されてきたと思います。
- トランプの中心的な支持層である保守的な白人のブルーカラーの投票行動を予測しきれなかった。
- 次々にセンセーショナルな話題を提供するトランプの動向を報道することに集中しすぎたため、本質的な議論を掘り下げることができなかった。
- 世論調査をベースにクリントンの圧勝を予測する報道が、クリントン支持者の投票行動にマイナスの影響を与えた。
大統領に選ばれた後も依然としてメディア批判の手を緩める気配のないトランプ次期大統領に対し、メディアはこれまでのところ静観する姿勢を保っているようです。今回の大統領選挙ではトランプの戦略にまんまとはまってしまったという反省も影響しているのだと思います。
ただ、来年1月20日の大統領就任式を境にして、メディアの総反撃が始まるのはもはや必至と言えそうです。就任から100日間はいわゆる”ハネムーン期間”とされメディアも新政権に対する批判を控えるのが伝統とされてきましたが、既にあらゆる面で常識をくつがえしてきたトランプに対してメディアが遠慮することはあるのでしょうか?
まとめ
かつてトランプの母親をオラウータンとからかって訴えられた経験がある大物コメディアンのビル・マーは、『一度破産した人間が大統領になれるのは「人生ゲーム」の中だけだと思っていた』と語っています。トランプが大統領になることは絶対にあり得ないという前提でメディアが情報を発信し続けたことが、今回の驚愕の大統領選挙結果につながった可能性について、もはや誰も否定できないのではないでしょうか。