トランプ政権暴露本「炎と怒り」アメリカでの評判

トランプ政権の内幕を描いたとされる「炎と怒り」。アメリカでは2018年の1月5日に発売され、トランプ憎しの大手マスメディアの側面支援が功を奏したこともあり、140万部を超える大ベストセラーになりました。

しかし、アメリカでの発売から1か月余りが経過した現在、「炎と怒り」とその著者であるマイケル・ウルフに対する信頼は徐々に失われつつあります。

今回はその背景を中心にこれまでの経緯を振り返ってみたいと思います。

情報の根拠に対する疑問

3時間に及ぶトランプとの単独インタビューはあったのか?

著者のマイケル・ウルフは、アメリカの大手主要マスメディアから「炎と怒り」に書かれている情報の根拠について聞かれた際、当初は大統領選のキャンペーン期間やホワイトハウス内部で行われたトランプ大統領本人との延べ3時間に渡るインタビューだと答えていました。

これに対し、トランプ本人、あるいはホワイトハウスの報道官は、記者団の質問に答える形で、マイケル・ウルフからの大統領に対する取材申請は30回以上あったものの、インタビューに応じたことは一度も無い、と完全に否定しました。

また、これに関連しトランプ大統領は、ホワイトハウスにウルフを招き入れたのは「スロッピー・スティーブ(”だらしないスティーブ”の意味)」つまり解任されたスティーブ・バノン元首席戦略官だ、とコメントしています。

このトランプの発言やホワイトハウスの情報公開、あるいはスティーブ・バノンの解任がきっかけとなったのかは不明ですが、「炎と怒り」の情報源に関するウルフの説明は徐々に変化していきます。

「私の本が証拠だ」取材時の音声記録やメモは存在せず…

ウルフは、ニュース専門ケーブルテレビ局MSNBCのケイティ・ターとのインタビューで「炎と怒り」の複数の事実誤認について指摘されたうえで、情報の裏付けとなる音声記録や取材メモの有無について質問を受けました。

ウルフは「私の本こそが証拠だ」と開き直りともとれる発言をした後、「本を読んで頭の中でベルが鳴るようだったら、それは真実だ」などと、およそジャーナリストらしからぬ発言をして人々を驚かせます。

こぼれ話「アメリカのメインストリームメディアには珍しい”女子アナタイプ”のキャスター、ケイティ・ター」

完全に余談ですが、マイケル・ウルフにインタビューしたケイティ・ターは、アメリカの大手主要ニュースメディアでは珍しい、日本の女子アナを連想させるキャスターです。

大学の文学部を卒業後、報道ヘリのパイロットだった父親の影響を受けて放送業界に入りトントン拍子に出世した彼女は、大統領候補時代のトランプに単独取材し、その後取材内容に不満を持ったトランプから名指しで批判されたことで注目を集めました。(一連の経験をもとに本も出版しています。)

アメリカでは多くのジャーナリストが、大学院でジャーナリズムや法律、あるいは政治学などの学位を取得した後、マスコミはもちろん、法曹、金融、政府機関などで働き各自の専門性を高めつつキャリアを築いていきます。

それとは対照的に、専門性や目立った業績もないままMSNBCで番組を持っまでに出世した彼女は、異色の存在と言えるかもしれません。

Embed from Getty Images

マイケル・ウルフに対するインタビューでは、信憑性に欠ける情報の裏を取るというジャーナリズムの鉄則に立ち戻ったかに見えたケイティ・ター。

ところが、ウルフの「ピンときたらそれが真実」という主旨のトンデモ発言に同調したかのように「私も本を読みましたけど…書かれていることは真実だと感じました」などと、これまでの質問を自ら台無しにするような発言をしています。(ニュースをリツイートしたジャーナリストのベニー・ジョンソンもケイティ・ターのコメントにあきれたようです…)

やはり情報ソースはスティーブ・バノンなのか?

さて、話題を「炎と怒り」とその著者であるマイケル・ウルフに戻しましょう。

彼が当初主張していた「トランプとの合計3時間に及ぶ単独インタビュー」から、「ホワイトハウスのウエスト・ウィングのカウチに座っている間に見聞きしたこと」へと、「炎と怒り」の内容に関する根拠を修正したマイケル・ウルフ。

保守派の若手No1論客としての呼び声も高いベン・シャピーロも、「炎と怒り」の信ぴょう性を早くから疑問視していた一人です。

彼は経営するニュースサイト「デイリーワイヤー」のYoutubeチャンネルで「炎と怒り」の中で指摘されていたセンセーショナルで信憑性が疑われる項目(例えば、「トランプはジョン・ベイナー前連邦下院議長が誰か知らなかった」など)をいくつか取り上げ、それらの論理的矛盾点を明確に指摘、完全に否定しています。

「バノンを知り尽くした男」が断定する情報源とは?

LA出身、ハーバード・ロースクール卒業の弁護士で、あのオルトライト系ニュースサイト「ブライトバートニュース」でエディターを担当していたこともあるシャピーロは、スティーブ・バノンの下で働いた経験があり、彼の人となりを熟知していると言われます。(上のビデオでは、普段通り”バノンはコミだ”と連呼しています…)

また、ホワイトハウスのウエスト・ウィングを訪問した経験があるシャピーロは、「炎と怒り」について、人の往来の激しいウェストウイングのカウチに座って見聞きしたことを参考にしながらも、大半の内容はバノンに吹き込まれたことを元に想像で書いたのだろう、という主旨のコメントをしています。

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